「あるじゃないか」
にんまりと椅子に座った。
そういえば、こういう椅子はシンガポールの空港にもあった。しかし表示はない。睡眠のマークやマッサージチェアの表示を出すと、皆、集まってきてしまう。本来は寝るスペースではないのだ。しかし背もたれを倒せば、かなり快適に眠ることができる。そのへんの優しさが伝わってくる。
見つけた人だけの安眠スペースだが、空港職員はきっとこういうはずだ。
「あそこは寝る場所ではなく、あくまでもマッサージチェアです」
それ以上は問い詰めなければいいわけだ。空港内を徘徊した人だけが辿り着く暗がりが通路の陰にひっそり待っている。
空港という空間は面白いと思う。その国の優しさやゆとりを測ることができる。
知らない空港に着く。イミグレーションまでの通路を進みながら、視線は夜に寝る場所を探している。そんな癖がついてしまった。