台湾は暖かいというイメージが、桃園国際空港を出たとたん、一気に崩れるのだ。

 高雄は台北から新幹線に乗ると、1時間少しで着いてしまう。それだけの距離しかない。しかし気候はがらりと変わる。日差しは強くなり、空気は乾いてくる。南国なのだ。

 台北の空は東京や上海に似ている。モンスーン気候なのだ。しかし高雄は亜熱帯の気候に支配されている。

 台北と高雄の間を北回帰線が通っている。その北と南では世界が違う。イメージする台湾という島の気候は北回帰線の南のものだ。

 日本から高雄までダイレクトにやってきた。どこか東南アジアの街に着いたような錯覚に陥った。

 高雄の空港は街に近い。地下鉄に30分も乗ると、市街地に着いてしまう。高雄駅前の広場には、出稼ぎのベトナム人やインドネシア人が集まっていた。今日は働く工場が休みなのだろうか。浅黒い肌の若者が、なんの違和感もなくそこにいる。それが高雄という街なのだろうか。高雄から南は、台湾の先住民族が多くなる。フィリピン人のような顔の人々が暮らす世界が広がっている。

 これは僕だけなのかもしれないが、東南アジアの土を踏むと心が軽くなる。スイッチが入ってしまうのだ。もう、きりきりと頭を働かせる必要もない……という怠惰な心境が体を埋めていく。高雄に着いたとき、その世界にはまっていく自分を感じていた。

 今日は星空を眺めながらビールを飲もうか。高雄はそんな空気をもった街だ。

著者プロフィールを見る
下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

下川裕治の記事一覧はこちら