さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第51回は台湾の高雄国際空港から。
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台湾の高雄国際空港に降りたのははじめてだった。3月初旬。日本はまだシベリア寒気団にすっぽり覆われていた。
いい天気だった。空港を出て体をのばす。
「南にきた」
そんな言葉が自然に出てしまった。気温は27度……。初夏の風を思い出した。
到着した街の気候は、旅の気分を左右する。冬のモスクワの空港に降りたときなどは気分が落ち込む。しかしモスクワという街の気候をある程度、想像しているから、それほど戸惑うことはない。
しかし、「えッ」とつい呟いてしまう空港がある。僕の場合、台北の桃園国際空港である。
台湾は暖かい、いや暑いというイメージがある。しかし桃園国際空港を出ると、冷たい雨と寒風に晒され、思わず襟元を抑えることがよくある。日本が寒い時期に台北を訪ねるときだ。
台北は意外に寒い。湿度も高い。冬場はコートが必要で、ひとりでホテルの部屋にいると、暖房がほしいと思う。
雨も多い。それも南国のスコールではなく、日本の梅雨や秋雨を思わせるような雨が降り続く。