妻は、日本は母系社会だとか、その方が合理的だとか、自分が書いた関係性の正当性をこんこんと主張し始めたので「こうやって言い負かされてしまうんですね」というと、優馬さんは

「所詮、私なんか種馬なんですよ」

といいました。ちょっと目がうるうるしていました。それでも妻は「そんなこと思っていない」と論陣を張り始めましたので、遮って、

「依子さん(妻、仮名)が、そんなことを思っていないのは、依子さんにとっては真実ですよね。同時に、この図が優馬さんにとっての現実なんです。依子さんがご自分の認識を主張すればするほど優馬さんは絶望的な気持ちになってしまいます。『一つの現実でも、私の認識はこうで、あなたの認識はこう。どっちが間違っているということではなくて、認識が違ってるね』っていうところから始めませんか」

と申し上げました。

■ハウツーよりも大事なこと

 現実のグループは法的関係や実際の居住状況とかで明確ですが、本当に重要なのは、心理的なグルーピングがどうなっているかです。双方の実家との関係はどうしたらうまくいくか、というハウツーの前に、

・夫婦それぞれが認識するグルーピングがどうなっているのか
・それぞれのグルーピングの認識が一致しているのか
・自分にとって、また相手にとってそのグルーピングでいいのか

 まずそこから考えてみる必要があります。その意識が調整できて初めて、具体的にどういう対応をするか、ということを考えることができるようになるのです。

 当事者だから仕方ない面があるのですが、目の前の問題に目が行き過ぎると、問題を引き起こしている本当の理由が見えなくなってしまうことが多いのです。

(文/西澤寿樹)

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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