■「20世紀少年」「PLUTO」誕生秘話
浦沢:ぼく「20世紀少年」がそれなんですよ。「Happy!」の最終回を描いて、やったー! 終わったー!って。「YAWARA!」から「Happy!」にかけて、14、5年週刊誌でやってたので、もう二度と週刊誌なんかやるもんかって、最後の原稿渡して。「わー! かんぱーい!」ってやって、それで「やれやれ~」ってお風呂入って、あーもう週刊誌なんか二度とやるもんかーって湯舟につかってたら、国連総長みたいなのが「彼らがいなければ、21世紀を迎えることはなかったでしょう」って演説するシーンが浮かんだんですよ。
糸井:おぉ!
浦沢:それで、ん!?何だこれ!?って、その「彼らを紹介しましょう」って国連総長が言うと、メンバーが出てきて、「20世紀少年」っていうタイトルが出て、っていうのをお風呂あがってからメモに書きとめたんですよ。で、何だろうこの話はっていう、そこから始まったんですよ。二度とやるもんか、週刊誌なんか描くもんか、もう何も考えたくないってなった瞬間に、わって浮かんだんですよ。
糸井:その時に、国連が出ちゃったんだ。しゃべった? そのことはすぐに誰かに?
浦沢:そのメモを、スピリッツ編集部にFAXしたんですよ。こんなのが浮かんじゃいましたって。
糸井:は~。よかったですねえ。
浦沢:いや、描く気ないですよ(笑)
糸井:そうなの?
浦沢:もうこりごりですから。でも浮かんじゃったからしょうがなく描いたんです。週刊誌なんてもう二度とやりたくない! あんなスケジュールの世界はやだって思ってたけど、浮かんじゃったんで。
糸井:何で週刊誌に送ったんだろうね(笑)。飛んで火に入る夏の虫じゃないですか。
浦沢:しかもね、1998年くらいに浮かんだんですよ。で、このドラマは1990年代中に、20世紀中に始めなければいけないドラマだなって思って、うわーもうすぐ始めなきゃいけないじゃんってなって(笑)
糸井:状況は自分の首を絞めるようなことばっかりですよね。俺はやらないって言っておいてね(笑)。いちいちもう、ぼくもそういうのあるよなと思うんだけど。これ誰かがやればいいのにっていうアイデアがよく出るんですよ。読みたいなとか、そういうのあったら俺絶対お客になるんだけどな、買いたいなとか、それを自分でやることになるんですよ。
浦沢:ほんとそれ。「PLUTO」はそれですもん。
糸井:あれも読みたかったんですか!?(笑)
浦沢:「PLUTO」も、鉄腕アトム生誕2003年に、生誕年なので、みなさんで鉄腕アトム生誕をお祝いする何かをやりましょうよっていうことをアナウンスされて、何かやりませんかって言われたときに、ぼくが鉄腕アトムの中で一番人気の「地上最大のロボットの巻」のリメイクとかに真っ向から挑むような、気骨のある漫画家はいないもんかね」なんて言ったんですよ。そしたらまわりにいた編集者に「自分で描きゃいいじゃない」って言われて。
糸井:その一言だよね。
浦沢:で、いやいやいやいや、とんでもないとんでもないとんでもないって言ってて。ぼくはだからそういうものが見たいって言っただけなんですよ。
糸井:それ、ぼくも相当近いなあ。
■自分が読みたい漫画を自分で描く
糸井:話を聞いてて、他の漫画家のこと語るときの浦沢さんすごいいきいきとしてますよね。
浦沢:あ、楽しいですよね(笑)。人の漫画は楽しいですね。
糸井:ねえ。で、同時に自分が漫画家なんですよね。
浦沢:うん、だから世の中にこんな漫画があったらいいのになーって思う自分がいるじゃないですか。こういうの読みたいな、で一番手っ取り早いのが自分で描いちゃうっていう。それは子どものときからですね。こういうのがあったらいいんじゃないかって、じゃあ自分で描いちゃえばいいじゃないかっていう。「あしたのジョー」の単行本を1巻2巻って買ったんですけど、3巻買うお小遣いがなかったんですよ。小学校3年くらいのときに。それで、じゃあいいや自分で描いちゃえって描き出したんですよ。
糸井:あはは。お話は知ってたの?
浦沢:うん、少年マガジンで読んでましたから。
糸井:読んでいたのを再現したんだ、自分で。
浦沢:そう、それで単行本の大きさに紙を切りまして、こういうふうにやればいいのかな、なんて折って(笑)。それ描き出したんですよ。サイズ小せえなとか言いながら。
糸井:いいなあ~。
浦沢:で、数ページ描いたところで、それ最終的に頓挫したんですけど、単行本ってこう見ると、背中のところで何か糊(のり)みたいなもので束ねられてるじゃないですか。この糊なんだろうなと思って。で、不易糊(ふえきのり)じゃねーよなあなんて言いながら(笑)。指でぐっぐっとやって、硬いなあって、これは素人が手に入れられるやつじゃないなあって。それでやめたんです。
糸井:はあ~。そんなのとっておいたら面白いだろうねえ。
浦沢:ね(笑)