糸井:捨てちゃうんですよねえ。製品っていうか商品としてあるもの、例えば漫画とかを自分で作ってみようと思う気持ちそのものが、なんかすごく面白いですね。ぼくは小学校のときにボールの硬球を見たことがなかったので、革でできていて縫い目が108つあるっていうのを本で読んで、靴屋さんに作ってもらったことがあるんですよ。

浦沢:形を?

糸井:そう。縫うのも全部やってもらったんで、今の自分とそっくりなんですけど、自分ではやらないんですよ。これをこうやってって言って、中にコルクが入ってて、ゴムが巻いてあるとか読んでたんで、それも全部準備して靴屋さんに渡して、これでどうかなって言ったら、やっぱり緩いんですよ。ピチっとならないんですよ、革も違うし。本当に出回っているものを自分で作るのは大変なことだなって。浦沢さんがそんなことやってたくらいの歳のときにぼくもやってましたね。

浦沢:何だろう、あるものを自分で作ってみたいっていう。そんな感じなんじゃないですかね。

糸井:そうそうそう(笑)。電気洗濯機を作ってみたいっていう気持ちも、自作パソコンを作ってみたいっていう気持ちも同じかもしれないですね。

浦沢:その感覚すごく近いですね。本というものを自分の手で作ってみたいっていうのが自分で描く作業としての始まりなんですよ。

糸井:間のプロセスで、ものすごくいろんな大人の苦労があるっていうのはあんまりよくわかんないから、できるんじゃないかなあって思う。地上最大のロボットを自分で描くときに、絶対できないって思ってたら始めないわけだから。

浦沢:そうですね。

糸井:ちょっとできるんじゃないかなあっていう(笑)

■手塚治虫漫画から受けた影響とは

浦沢:小学生のころから、手塚先生がどういうふうに描いているのかを分析するわけですよ。「掛け合わせ」ってどうやってやるんだって。ジーっと見て。実際に描いてみましょうか?(プロジェクターに向かう)

糸井:わあ、便利な講演会ですね。

浦沢:掛け合わせって、ざっくりいうとこうなんですね(※写真2参照)。これが掛け合わせっていうんですよ。手塚先生はこれがとってもきれいで、掛け方によると、模様みたいなものが出るときがあるんですよ。微妙に斜めにする、こうやってやると、モアレが出てくるんですよ。

糸井:手作業なのにねえ。

浦沢:そう。これを、ずーっと練習したんですよ。

糸井:はぁ~。世界中にそんな子どもが何人かはいたんでしょうね。浦沢さんだけじゃないんでしょうね。

浦沢:そうですね、たくさんいたと思いますよ。

糸井:たくさんはいないと思いますよ(笑)。スクリーントーンっていう発想はなかったんですか?

浦沢:スクリーントーンは20歳過ぎて新人賞をとった作品で初めて使ったんですけど、あまりにたくさん種類があって、どれを使ったらいいかわからない。まず、点々みたいなやつがあるんですよ。それを1センチ四方計りまして、点の数を数えたんですよ。

糸井:うん。

浦沢:それで印刷物は、120%で縮小されますので、それを計算して、この点でいけば、71番かなってぼく算出したんですよ。そうしたらね、実際は61番だった。

糸井:(笑、拍手)

浦沢:でそれを貼って、雲のところとかかすれたようになったのをホワイト筆で丁寧に消していったんですよ。

糸井:あ、多すぎる点をね。

浦沢:うん。したら編集者が、「浦沢くんこれホワイトで消してるけどさ、カッターで削るんだよ」って。あんときすっごいショックだったんですよ。うわー、カッターで削んのかーって。うーわー、削れるーって。

糸井:その技術があったら、またガーッと進化するわけだ。全くそれファンの目線ですよね。自分で描いてる漫画に対して、もう自分じゃなくてファンとして見てますよね。

浦沢:うん、漫画ファンですよね。

■手塚さんからもらった「かっこいー!」

糸井:浦沢さんとぼくは全然違うタイプの人だと思ってたけど、自分が普段人に言ってることも同じような話ですよ。ぼくは文章書くときとか、企画するときには、コピーライターは依頼があって仕事するわけだけど、依頼があった人の一番いい所にいっては、いいことをしては駄目だと思っていて。その人が言いたいことがあるときは、一番前の列で聞いている人がいるから、その人の立場で考えるっていうことをしてきたんです。会社でも、みんなに文章を書くときとか、立ち位置の話をよくするんだけど、お客さんに近いところの一番前で書きなさいと。今のお話は、自分で描くごとに客席にちゃっと回ってますね(笑)

浦沢:そうですね。「かっこいー!」って思ったら、そっくりそのままいただくっていう。なんてことないんですよ。手塚先生の描いている……(再びプロジェクターに向かう)。

糸井:手が動くのは都合がいいねえ。

浦沢:そうねえ。簡単に説明すると、たとえば、なんだろう(絵を描き始める)。

糸井:あ、なんか手塚っぽいですよ。これ、火の鳥の人かなあ。

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