糸井:人体の動きも全部Delayしてる気がするんですよね。手塚さんの初期のころでも、スローモーションの遅れみたいに見えるんですよ。それ今もう全く日本の漫画にはないですよね。
浦沢:なくなりましたね。宮崎駿さんが、ルパン三世でタタタタタタタって下りて行って、普通だったら落ちちゃうのにそっからひょいーんっていっちゃうのは、あれはもう、アニメがもう……(映画「ルパン三世 カリオストロの城」、ルパンが屋根から屋根へジャンプするシーン)。
糸井:ひっくり返したってやつですね。
浦沢:うん、ひっくり返した。
■アニメは漫画のDNAを途絶えさせた?
糸井:アニメっていう新しい流派が生まれて、ぼくの代わりに君が描いても「巨人の星」は成り立つよねっていう文化が入った気がするんです。あそこからはまた描法についてのDNAが途絶えるようにも思えるんですよ。
浦沢:あの、描き手としての?
糸井:描き手としての。
浦沢:ところがぼく、いろんなところで言ってるんですけど、「巨人の星」のアニメチームを、東京ムービーというところがやってたんですけど、ぼく当時まだ10歳くらいで、あれが4チームか5チームで描いてるのを見抜きまして。
糸井:すごい(大笑)
浦沢:うまい人、うまい人、普通な人……下手な人みたいな感じのチームで(笑)。で、指折り数えていくと、花形(満)が大リーグボール1号を打つ回は、下手な人になっちゃうわって……。
糸井:あー、順番が。
浦沢:やばいぞと。あの人でもつのか、って思ったら、間になんか、何その話っていう雑誌で見たことのないグランドキーパーのおじさんの話みたいなのが入ったりするんですよ。
糸井:うんうん(笑)
浦沢:で、間延びして、あ、ここにこれが入るってことは、お、もしかしてあの人、みたいな感じでちゃんとクライマックスは一番うまい人が、荒木伸吾さんって人なんですけど。荒木伸吾さんが描いた花形満が大リーグボール1号を打つシーンっていうのがね、それをぼくもう、ビデオがない時代じゃないですか。もうジーっと見てね。
糸井:観察して(笑)
浦沢:(放送が)終わってから新聞広告の裏に、もう何枚も何枚もそのアニメのセル画のように、こうなって、こうなって、こうなったっていうのを描きましてね。
糸井:すごいですねそれ。なるほど。
浦沢:はい。今でも描けますよ(笑いながらプロジェクターに向かう)
糸井:描き分けをするわけですね。大量生産できるようになったのに、個性の描き分けを。
浦:(描きながら)あのこれが、花形が……
糸井:あ、もう花形を感じます。
浦沢:こうなって、こういうふうにきて、ここに、ボールが当たるんですよ。
糸井:うんうん。
浦沢:それで、うぅーんって、うにって。こうなる。阪神(ユニフォームに棒を引く、会場笑、※写真8参照)。それで、次このざっくりいきましょうね。これがね……こんな感じでこう……ボールが上に……。
糸井:あーーーー!
浦沢:で、こうでしょ?(※写真9枚目参照)
糸井:(絵を順番に見せながら)うーーーん、かっきーーん!(会場笑、拍手)
浦沢:これね、これ小学校のとき何度も描いたんですよ。
糸井:いい! そうか、その作画演出っていうジャンルがもう一つ生まれたんだね。
浦沢:そうなんです。こんなふうに見えるんだ、こういうふうに描くと、って。
糸井:うれしかった?
浦沢:うれしかった!
糸井:それを自分でもう漫画とかで描いてたんですね?
浦沢:描いてました。
糸井:応用したわけですねきっと。
浦沢:こういうの見たらそれ全部応用されて、自分の作品に使われるんですよ。
糸井:はー。
浦沢:眉毛太くなっちゃって(会場笑)
糸井:はあー。この時代にね(笑)
浦沢:うん(笑)
■面白いアニメにはいつも同じ名前が!
糸井:自分はアニメになったときに、がっかりしたタイプの人間だったんですよ。ぼくの親しんでいたうまい下手、好き嫌いは手塚さんが中心だったんで、手塚さんから離れていくと、ちょっと違うなって思っちゃった。劇画側の人にも慣れていったんで両方受け取るんですけど、どっちにしてもこのくらいの完成度みたいな基準が何となくできていたんで、アニメーションで見ると、これ違うじゃないかと。
浦沢:はい、うん。