浦沢:人が立っているのを上から見た構図で、ここにこういうふうに影がこうやって入っているんですよ。この影を見た段階で、「かっこいー!」ってなるんですよ(※写真3参照)。
糸井:影によって季節を感じますよね。太陽の位置を。
浦沢:太陽の位置、そう、これが濃ければ濃いほど夏になったりとか。
糸井:これ手塚さんが考えたわけですよね、あるとき。
浦沢:そう、なんかね、こういうふうにした段階でこの男がどういうふうに地面に立っているかっていうそこに立体空間が出てくるっていう。それが、「わー! かっこいー!」って思って、それを一生懸命まねしたんです。
糸井:じゃあ浦沢さんの漫画にもこの影響はずばり出てるんですか?
浦沢:もうもろに。
糸井:その目で見てみたくなった。これ冬だったら長くなるし。
浦沢:影ってすごいんですよ。
糸井:影の話をするのに人体ぜんぶを描いたってところに、浦沢さんの誠実な人柄を見ました。棒1本だって描けるのにね。あ、また全部描いた。あーいいねー。
浦沢:これで、これだけ(影を入れる)でかなり寂しい絵になります(※写真4参照)。
糸井:寂しいですね。寒くなりますね。
浦沢:うん、これ半袖だけどね。
糸井:あ、長袖が買えない子だったんだね(笑)
浦沢:影はね、本当に大事ですよ。
糸井:そのもとは、手塚さんにもらったの?
浦沢:そうです。
糸井:手塚さん、あげた覚えないんでしょうけど(笑)。すっごいですねそれ。
浦沢:そういうことがかっこいい。
■糸井重里さんがもらった「ま、」
糸井:ぼく自分のことでそういうことあるかなって思ったんですけど、「ま」って書いて点を打つんですよ。「今日は浦沢さんに会った。ま、前にも会ったことがある人だから」っていうその「ま、」っていう。その「ま、」は土屋耕一さんって人にもらったんですよね。「いいーーー!」って思ったんですよ。「ま、」一つで、本気で文章を書いてない感じが出るんですよ。
浦沢:あー。そうかー。
糸井:プラモデルのバリみたいなところですから。なきゃないで飛ばしちゃえばいいわけ。新聞記事には絶対「ま、」とは書いてない。「猿が逃げた。ま、その猿も長年……」って、その「ま、」一つでね。で、それを印刷される言葉に「ま、」って入れたことに、かっこいいー!って思ってね。今でも多用してますね。「ま、」は。
浦沢:丸つけるとかってあるじゃないですか。
糸井:あれも広告の中で、確か単語一つのっけて、「乾きに。」っていうのがあったんですよね。それも土屋耕一さんです。
浦沢:その丸つけただけで、かっこいー!って。
糸井:文章のようになるんですよ。
浦沢:そのかっこいー!って響くっていうのがすごく重要ですよね。
糸井:そうですね。だから丸っていうのはコピーライターがやるものだって思い込んでる人もいるんですけど、コピーライターがやるというよりは、誰かが書いたものですよっていう気がするんですね。俳句の最後に丸をつけたら、誰かが書いたっていう、誰かさんの匂いがするわけですよ。「不思議大好き」とか書いても丸って打たないと、不思議大好きって言葉は部品ってことになっちゃうんです。どう使ってもどこにはめてもよくなっちゃうんですね、不思議大好きが。でも「不思議大好き。」って丸を入れると、これ1個で全部のこと言いたいんですよっていう表現になるわけです。わけですっていうか、たぶん感じ方がそうなんだと思います。今の影の話も、見つけたから浦沢さんのところにDNAとして残って伝わったけど、浦沢さんが見逃してたら、そのままですよね。
浦沢:うん、そうですね。
■手塚治虫の目の描き方にみる時代の変遷
糸井:目玉の描き方とか手の描き方って、漫画家の人が自分の記号としていっぱい持ってますけど、さっき楽屋でちょっとお話したしたんだけど、手塚さんの目の描き方の発明とその変遷があるんですよね。
浦沢:いろいろぼく今日テキストを持ってきたんですけど。糸井さん世代はやっぱりアトム?
糸井:アトムです。「少年」っていう雑誌にアトムが連載されていて、「少年」を読むにはぼくはちょっと幼かったので、「幼年ブック」ていうのを読んでいたんですけど、でも「少年」はお兄さんの雑誌で読んでました、憧れで。
浦沢:これ、復刊ドットコムさんで、当時のそのまま復刻してるんで。
糸井:このアトムです。この海パンにベルトがついてるっていうのがね(※写真5参照)。みなさんお笑いになりますけど、当時の海パンにはベルトがついていました。この真ん中の着陸しそうなアトムとかいいですよね。
浦沢:これ?
糸井:そう、手からシャーッと出てる。
浦沢:これねえ。なんかもうこれ見てるだけで、あのころのSF感っていうか、心躍る何かがありますね。
糸井:高さを子どもが感じられるんですよ。
浦沢:そう! こういうのかっこいー!ってやつですよ。
糸井:かっこいい(笑)。速度出してたらこの姿は見えないんですよね。
浦沢:そうですね、このページだけでもうご飯3杯くらいいけちゃう(笑)