AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。
佐々木一郎さんによる『稽古場物語』は、著者直筆のイラストと文章で読み解く、44部屋の稽古場の物語。月刊誌「相撲」での連載を加筆修正し、それぞれの部屋の歴史や隠れた秘話を盛り込んだ一冊だ。著者の佐々木さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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土俵のある稽古場だけでなく、ちゃんこ場や風呂場に洗面所、さらには若い衆が生活する大部屋まで。普段私たちが目にすることのない相撲部屋のあれやこれやを相撲番記者の佐々木一郎さん(47)は、憧れていたという妹尾河童氏の一点透視法を用いてイラストにしたためた。
「元々は月刊誌の連載として始まりました。スタート時は相撲記者として何年かやって、親方衆ともいろいろと話ができるようになっていた頃。だからこそ、今までにないもの、自分にしかできないものをやりたいと思って考えたのが一点透視法で稽古場を描くということでした。相撲部屋というのは特殊で、建造物としての価値もある。それらを記録として残しておきたかったという気持ちもあります」
上がり座敷の幅は11.5歩、稽古場の縦は26歩……と歩数のメモを取る。佐々木さんは本書に登場する44のすべての相撲部屋で、力士の邪魔にならないようにと、稽古後に歩測で採寸を行った。
「最初こそは、似たりよったりになったらまずいなって思っていたのですが、ちゃんと取材をするとそんなことはありませんでした。馴染みがなかった部屋でも、行けば特徴が見えてきます。本書では、イラストのほかに稽古場での物語も執筆していますが、親方の考えもそれぞれなので書くことに困ることはありませんでした」
記されたのは、病に倒れリハビリ中の親方と弟子たちのやりとり、水没した稽古場の復旧に追われた話など、相撲部屋を取りまく悲喜こもごもの姿。なかでも共通するのは、弟子を指導する親方たちの試行錯誤の様子だ。