「昭和の時代だったら、怒鳴って前に出ろ、ぶつかれという指導でよかった。でも今の若い子たちには通用しません。親方たちは体で教え込まれてきた世代なのでそこで戸惑いもあるし、悩みもあります。『今の時代の稽古場』を反映できたような気がします」
四股、鉄砲、すり足は今も稽古の定番だが力士のアスリート化は進んでいる。目標設定シートを書かせ、風呂場に浴槽を二つ造り、温冷交代浴を取り入れる親方も出てきた。
「大相撲の魅力は懐が深くて多様性があるところ。勝負は一瞬ですが稽古場で長い時間をかけてやっていることは嘘をつかないし、見た人しかわからない感動があります。巻末にはあえて稽古見学ガイドを掲載しました。ルールを守って見学してほしいですね」
勝った負けたのその先へ。知られざる相撲の世界へ誘う一冊だ。(編集部・三島恵美子)
■リブロの野上由人さんオススメの一冊
『憲法解釈権力』は、恣意的な権力行使への論理による抵抗とも言える一冊。リブロの野上由人さんは、同著の魅力を次のように寄せる。
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2014年7月1日の閣議決定によって、日本国憲法9条の明文改正なきまま、安倍内閣は集団的自衛権の行使を限定的にではあるが、可能とする憲法解釈を示した。戦後長きにわたって政府自ら堅持してきた憲法解釈を変更した。
これが憲法学者をはじめ多くの法律専門家から厳しく批判されたことは、6年も前のこととはいえまだ記憶に新しい。果たして、このように閣議決定で憲法解釈を変更することは、そもそも許されるのだろうか。
本書は、内閣の憲法解釈を最大の関心事として、公権力による憲法解釈をいかにして制約できるか、その論理を探る論考である。
著者は、樋口陽一門下の憲法学者。朝日新聞の「憲法季評」でも論理的に研ぎ澄まされた時評を書いて目を引いた。恣意的な権力行使への論理による抵抗。静かに、熱い。
※AERA 2020年3月23日号