タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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発達障害って、どんなイメージ? 私はADHD(注意欠如・多動症)という障害があるのですが、同じ診断名でも人それぞれに困りごとの内容や程度が異なります。自分の脳の特徴が生活の障害になるかどうかの度合いは、置かれた環境によっても変わります。身体は個別かつ変化するものですから、当然と言えば当然です。でも、「障害」という名がついた途端に個別性は塗り潰され、人ではなく診断名を見るようになりがちです。
ところで障害は誰のものでしょう。普通と同じようにできない人は、みんなにとっての障害だと考える人が少なくないようです。例えば我が子のクラスに発達障害の子がいたら、学習の妨げになるので迷惑だと。それは確かにそうでしょう。学校の授業は、発達障害を持つ子とそうでない子が一緒に学ぶことを想定して設計されていないからです。見え方としては「一人がみんなに迷惑をかけている」ので、その子の困りごとではなく、みんなの困りごとの方が問題になります。本当は、発達障害のある子が全ての元凶なのではなく、その子さえいなければうまくいくようにできている学校の側に原因があるのですが、そこは問われません。
もしもお子さんの身近なところに発達障害を持つ子がいることがわかったら、我が子にとっても、発達障害を持つ子にとっても困りごとの少ない環境にするにはどんな工夫が必要か、親子で考えるといいかもしれません。多様性に対応できる力を、というとグローバル教育に目が行きがちですが、こうしたことも身近な学びです。
多様性に寛容な社会は、手間がかかる社会です。違いが顕在化し、意見が違う人が増えるのですから、簡単なことではありません。その手間を前提に仕組みを作り直そうとする動きと、違いを封じようという動き。どちらがあなたにとって便利ですか。
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中
※AERA 2020年11月16日号