国民世論の検察への圧力を弱める奇策。それは、世論の関心を他にそらすことに尽きる。それが、今年2月末に、突然行われた安倍総理の小中高校などへの一斉休校要請だった。当時の安倍氏の頭は桜を見る会と五輪開催問題でいっぱいで、コロナ対策は二の次だと思っていた私は、なぜこんな強硬策を打ち出したのかと思ったが、実は、これは、安倍総理や今井尚哉秘書官が大好きなアメリカの政治ドラマによく出てくるシナリオだった。
大統領が個人的スキャンダルで追い詰められると、国民的大議論を呼ぶ政策を何の根回しもせずに突然発表する。与野党を巻き込み、さらには世論を二分する大議論になれば、スキャンダルへの関心は大きく減退する。
安倍氏の休校要請はその典型だ。安倍氏側近中の側近と言われる萩生田光一文科相でさえ強く反対した。野党や国民の間からも強い批判が出て大騒ぎとなったのも注文通り。翌日以降、桜を見る会に関する報道も国会質問も激減。「大成功」だ。
こんな大博打に出たのはなぜか。それは、「安倍氏はクロ」で追い詰められたからだ。私はその時からそう思っている。
※週刊朝日 2020年12月11日号
■古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)など