「指示通りの単価を書いたのに、僕が担当していた官庁のレンタル台数がいきなり3分の2に減ってしまったんです。しかも、その原因をすべて僕のせいにされてしまったんです。上司がネゴってこの単価で行けと言ったのに、上司は『上野がきちんとネゴっていなかったせいだ』と社に報告したわけですよ」

 さらに上司は、上野に向かって信じられない命令を出した。

「契約更新できなかった50台分のレンタル料を、自分の給与から補填すること」

 直情径行が売りの九州男児である。上野は当然のごとく、切れた。

「ネゴに失敗したのは、お前だろう」

 殴りはしなかったが、職場で、大声で啖呵を切ってしまった。

 あまりの不条理に直面して、上野は自暴自棄になってしまった。そのなり方がまたしても直情径行というか、わかりやすいというか……。

「もう、怒りで頭が沸騰してしまってね。なにしろ月給が手取りで200万もあったから、金銭感覚が狂っていたんでしょうね。上司とぶつかったその日から丸1カ月、自宅に帰らずにカプセルホテルを泊まり歩いて、パチンコ、競馬、競輪、競艇とありとあらゆるギャンブルをやりました。そうしたら、あっという間に300万円の借金ができちゃった」

 上野のいた外資系企業には、10日間無断欠勤をすると懲戒解雇になるという規則があった。職場と自宅から失踪して2週間目、自宅に電話を入れると妻が出た。

「もう、存続は難しいわね」

 妻の声は冷たかった。存続とは、仕事の存続だけを意味するわけではなさそうだった。1カ月たって自宅に戻ってみると、すでに家財道具はすべてなかった。もちろんふたりの子供の姿もない。

 この日から、上野のどさ回りが始まることになる。

■もう、この人とはいいや

 1カ月の放蕩生活でこしらえた300万円の借金は、ありがたいことに退職金が500万円ほど出たのですぐに返すことができた。住宅ローンが残っていたが、若干の蓄えもあった。妻子が出て行ってから約2年間、上野はバルコニーつきの一戸建てにたったひとりで陣取って、まったく仕事をせずに酒浸りの日々を送った。

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所持金が底をついた上野は…