そこで、23日のテレビ朝日「報道ステーション」で、私は、安倍氏の発言を「宣戦布告」に等しいと述べ、「日本人は誰とも戦わない。安倍総理とは違うと世界に発信すべく、英語で『I am not ABE』というプラカードを掲げて発信しよう」と呼びかけた。勇気のいる発言だった。
その直後、番組中に菅官房長官の2人の秘書官から2人のテレ朝幹部に別々に抗議のメールが入った。本件に対する菅氏の危機感がよくわかる。
当時は、集団的自衛権の行使を可能にする安保法制の国会提出直前の時期だ。後藤氏が解放され、アメリカの空爆で苦しむシリアの女性や子供たちの姿が日本中に放送されていたら、安倍、菅両氏にとって、大きな痛手になったはず。だから、見殺しにしたのか。その疑念が私の頭から離れない。
昨年、財務省近畿財務局職員の赤木俊夫さんが命を懸けた告発の手記が公表された。赤木氏もまた安倍政権に殺された一人だ。二つの事件の真相はいまだに闇の中。後藤、赤木両氏は日本国民にとっての英雄だ。
2人の命を奪ったのに何の責任も取らず逃亡した安倍氏。その共犯者でありながら、責任を取るどころか、総理の座に上り詰めた菅氏。後藤さんのことなど忘れた……ということなのだろう。
※週刊朝日 2021年2月5日号
■古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)など