この咳エチケットとしてのマスクの必要性は、会話エチケットに拡大しました。会話でも飛沫は出る。だから会話する両者がマスクをしていたほうが、飛沫防止につながるというわけです。これは確かに一定の効果があるようですから、納得できます。しかし、このマスクの必要性は、いつの間にか、さらに拡大してしまったのです。

 例えば、最近はお店に入るときに、マスクの着用を求められます。しかし、客同士や店員と会話するわけでもなく、ただ商品をながめるだけなら、なぜマスクが必要なのでしょうか。咳エチケットだけで十分です。また、マスクは咳エチケット、会話エチケットのためにあると明確にその必要性を意識していれば、普段はマスクを首にかけていて、咳をするときや、会話のときだけ上に戻せばいいのです。

 さて入試の場合ですが、試験会場で会話はしません。ですから、会話エチケットの必要はありません。つまり、咳エチケットだけを徹底すればいいのです。マスクを常時していれば、思考力は鈍るでしょうし、メガネが曇るということも起きます。そういう不利益を受験生に強いることに私は疑問を感じます。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2021年2月26日号

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