立体イラスト:kucci
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 これまでの教育とは異なる「イエナプラン教育」が注目されている。大人から子どもへの一方通行ではなく、子どもたち一人ひとりに合った学びを重視する。そんな新しい教育を求めて、移住する人たちがいる。親たちの思いとは。AERA 2021年6月21日号は、長野県佐久穂町にある私立・大日向小学校に通う子を持つ親らを取材した。

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 東京から移住し、今年4月に長女が大日向(おおひなた)小学校に入学した山口次朗さん、温子さん夫妻は学校が始まって2カ月で、すでに娘の変化を実感している。

「以前は友だちとケンカすると、『もう知らない』と諦めていたけれど、今はなんとか解決できないかと向き合うようになっています。東京にいたころからは考えられないくらい活発に走り回っているし、触れなかったはずの虫やカエルも気が付けば自然に触ってみようと思えるようになった。何といっても伸び伸び楽しそうに過ごしていて、大人びていたのがとても子どもらしくなりました」(温子さん)

■増えた教育の選択肢

「予兆」は、2年前に参加した1日体験会からあったという。

「初めはすごく緊張していました。でも、親と離れてプログラムに参加し、戻ってきたときには、普段楽しんでいるときに自然に出る、一番いい笑顔をしていたんです。心配して送り出して、その表情で帰ってきたときは本当に驚きました。娘もそれ以来、大日向小に行きたいと言い続けていました」(次朗さん)

 大日向小学校が目指すことの一つに「教育の選択肢を増やすこと」を挙げるのは、学校理事の中川綾さんだ。日本イエナプラン教育協会の理事を長く務め、開校前は「佐久穂町イエナプランスクール設立準備財団」代表として学校開設に携わった。

「これまで学校での学び方は、大きく見ると一斉授業型がほとんどで、一人ひとりに合った学び方や環境を作りたいというのが一番の願いでした。必ずしもイエナプランだけがいいわけではなく、大切なのは、本当の意味で『学び方を選択できる』ことだと思っています」

 開校後、中川さんにとってうれしい出来事があった。大日向小学校に通う児童の弟が、地域の公立小への進学を選択したことだ。この家族は当初、兄弟ともに大日向小に入学することを考え、移住してきたという。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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