彼女はこうした本心を内に秘めたようなヒロインが似合う。NHKもそのあたりを見越して起用したわけで、脚本に安達奈緒子を持ってきたのもまたしかり。両者は18年に放送され、高く評価された連ドラ「透明なゆりかご」(NHK総合)のコンビでもある。
ただ、これについても「ヒロインと脚本家を過信している」という声が出た。実際、ハマりすぎた世界観はともすれば閉じられた印象ももたらす。いちげんの客が入って行きにくい名店のような敷居の高さも感じられるのである。
ちなみに、筆者はこの朝ドラを7時半からの放送枠で見ているが、その前のアーカイブ枠で放送されているのが「あぐり」(1997年度前期)だ。こちらはヒロインのキャラといい、ストーリー展開といい、朝ドラ史上まれに見るハキハキとしてキビキビとした作品。そこから続けて「おかえりモネ」を見るので、コントラストがさらに際立つ。そして、その違いから、両者それぞれの魅力もわかってくるのだ。
というのも「あぐり」は美容師の草分けにして、文学者や女優の妻や母となり、107歳まで生きた吉行あぐりという実在の偉人がモデル。特別な人たちを描いた、大河ドラマに近い朝ドラだ。これに対し「おかえりモネ」は普通の若い女性とそれをとりまく普通の人々の物語である。そういう「普通」の世界を現実的に描こうとすれば「モヤ」がかかったようになるのも自然なことだろう。
それゆえ、登場人物たちはみな、迷いながら生きているし、その姿はもどかしい。そういう迷いやもどかしさこそが、人生の本質だったりもする。その本質にこだわることに関しては、迷わないしもどかしくもないのが、このドラマの姿勢だ。
その姿勢を大いに感じさせたのが、第39回だった。ヒロインの幼なじみ・りょうちんの父で、震災で最愛の妻と船を失い、借金漬けで酒びたりになったりしている漁師が、こんな本音をぶちまける。
「5年って長いですか。お前、まだそんな状態かよってあっちこっちで言われるんですよ。でもね、なんでか、もう、ず~っとどん底で、俺はなんにも変わらねえ」
そして、涙ながらに、
「俺は立ち直らねえ。絶対に立ち直らねえよ」
と、開き直ったような気持ちを絞り出すのである。