個人的には、この場面だけでも、この朝ドラが震災を扱った価値はあるし、見続けてきてよかったと感じた。悲しみの深さもそれを癒やす時間も、人それぞれ。そんな当たり前のことを見事に描いてくれたからだ。痛快なことが起こりにくいこの作品のなかで、最も痛快な瞬間だった気もする。

 また、第29回ではがんを患って落ち込み、治療を迷う孤独な中年男に前出の青年医師がこう言う。

「本心なんてあってないようなもんです。(略)一日でも長く生きたいって思う日もあれば、もう終わりにしたいって思う日もある。当然です。(略)積極治療っていうのは、明確な目標を掲げた前向きな治療のことばかりをいうんじゃないと僕は思うんです。迷う時間をつくるための治療だと思いたいです」

 この言葉に男は「迷うための時間か…」と心を動かされるのだ。人生のもどかしさや迷いに対して誠実なこの作品らしいやりとりだった。

 ただ「本心」の曖昧な流動性は人間の本質とはいえ、それをそのまま描くのは物語をわかりにくくする。また、迷ってばかりいる登場人物も共感を呼びにくい。特に朝ドラでは、ヒロインが偉人かどうかにかかわらず、とにかく行動的で、それが物語を進行させることが期待されがちだからだ。

 その点「おかえりモネ」ではヒロインもけっこう迷う。その凡庸さがこの作品のリアルさであり、深さでもあるが、全体的に深いところを狙いすぎている気もするのである。

 この「深いところを狙いすぎる」傾向は前作の「おちょやん」を含め、最近の朝ドラが陥りがちなもの。ながら見の視聴者を取り逃がす原因にもなっている。広く浅くでも困るが、深さを狙いつつ、誰にでもわかる面白さや楽しさをちょくちょく入れていかないと朝ドラとしては不完全だ。

 その点、東京編ではこの問題が解消されそうな気配もある。ニュース番組と気象コーナーの裏側が垣間見えたり、今田美桜のお天気お姉さんぶりがかわいかったりと、ミーハーな興味も惹きつける要素が出てきた。登米・気仙沼編でも、りょうちん役の永瀬廉(King&Prince)に人気が集まったように、こうした要素も大切である。

暮らしとモノ班 for promotion
「最後の国鉄特急形」 381系や185系も!2024年引退・近々引退しそうな鉄道をプラレールで!
次のページ
都会が舞台となってモヤがうすれた