人との接点を奪う外出自粛はMCIの人にとっての危機である。
朝田医師はコロナ禍対策としてデイケアに直接来られなくてもネットで自宅からでも参加できる「どこでもデイケア」を昨年春から配信している。1回40分ほどのプログラムで、ぼくの好きな本山式筋トレや音楽サロンなどもある。
ぼくはデイケアとは別に通い始めたスポーツクラブが休館の間も、自宅でネット動画を見ながらピラティスやヨガをやるなど運動を継続。並行して「どこでもデイケア」で脳に刺激を与え続けた。画面を見ながら一人で硬い身体を動かしたり下手な歌を歌ったりすることには、最初は抵抗感もあった。でも慣れてしまうと便利でもある。ただ、やはり配信は一方通行なだけにもの足りない。仲間と触れ合えるデイケアの場は不可欠だ。
ぼくは7年半に及ぶデイケア通いの効果を確信している。フィジカルトレーニングばかりでなく、生活全体を見直す契機をもらっている。食事も偏ったものから野菜中心のバランス重視へ、アルコールも控えめになった。体調は現役の記者当時より断然いい。クリニックで半年に1回行われる認知機能テスト(心理テストも含む)の成績は回を追うごとにアップし、最近はほぼ満点の状態が続いている。これもリハビリを継続した結果だと朝田医師からは言われた。
ぼくは65歳で会社人間を卒業するときに朝田医師に相談した。男性の場合、女性より社会になじむのが苦手で、退職後に認知症を発症したり症状が進行したりするケースが多いと聞いていたからだ。そのときに朝田医師からこれまでのリハビリを継続するためにも、
「良い習慣づくり」
が大切だと言われた。会社に通勤するという毎日の習慣がなくなって、自宅でテレビを見て過ごすケースが多いという。
退職後のぼくは決まった時間に決めたことを短時間でもいいから必ず行うよう自分に義務付けている。ぼくなりの生活スタイルを決めて、「テレビのボーッと見」だけは避けようと言い聞かせてきた。