医療負担を抑えるため、もう一つ押さえておきたいのが「医療費控除」だ。1年間に使った医療費のうち、高額療養費制度や医療保険で補填されなかった部分の合計が10万円、もしくは所得が200万円未満で所得の5%を超えた場合、税務署に確定申告や還付申告をすると、払いすぎた税金が戻ってくる。
年金生活者の場合、年金が年400万円以下などの場合に適用される「確定申告不要制度」の対象になることもあって、申告する人の割合は少ない。自分の税金をチェックする機会も多くないはずだ。
また医療費控除というと、「10万円」ラインが意識されることが多い。「所得の5%」という点も見逃さないようにしよう。収入が年金だけの場合、所得が年間200万円を下回る人は少なくない。例えば所得が100万円なら、5%にあたる5万円を超えた分の控除が受けられる。「10万円」にとらわれず、その年にかかった医療費をチェックする必要がある。領収書や明細書は捨てずに取っておこう。
■グレーゾーンの見極めポイント
申請にあたり、まぎらわしいのはどんな医療費が対象になるかだ。下の表を見てほしい。風邪薬など治療のための薬代は対象になるが、疲労回復のために買ったビタミン剤や健康ドリンクは対象外。資格者による整体やメガネ、補聴器、歯並びの矯正も、治療が目的ならば対象になる。
反対に医師の診断によらなかったり、美容のためだったりすると対象にはならない。前出の板倉税理士は、見極め方のポイントを解説する。
「グレーゾーンも多いが、対象になるのは基本的に『治療』目的のもの。『健康増進』や『予防』が目的のものは対象にはなりません」
難しいのが人間ドック。病気の「予防」のためだから原則は対象にならない。だが人間ドックでがんや心疾患、高血圧や糖尿病といった重大な病気が見つかり、その治療を続けると、人間ドックにかかった費用も医療費控除の対象にできる。
とはいえ、ややこしいので迷ったら税務署や税理士らに相談しよう。
便利な制度があっても使わなければ得にならない。知らないと負担ばかり押しつけられる。アンテナは高く張っておこう。(本誌・池田正史)
※週刊朝日 2021年10月1日号