『定年前後のお金の正解』などの著者で、老後のお金の問題に詳しい板倉京(みやこ)税理士は「医療費はこれから増えていくでしょう」として、しっかり備えておく必要があると強調する。
「将来の人口構成を考えると、医療や介護の負担を現役世代ばかりに負わせる今の制度は限界があります。実際、70歳以上の医療費はかつては無料でしたが、月あたり400円、1割負担、そして一定の所得以上と限定的ながら75歳以上も2割や3割負担へ、といった具合にどんどん上がっています。医療技術の進歩や、長寿命化で治療費や薬代もより多くかさむようになっており、自分自身で備える重要性が高まっています」
では、どうすべきか。見直しが進んでいるとはいえ、国内の公的な制度はなお手厚い。まずはこうした制度を上手に活用するとよい。
代表的なのが、冒頭の男性も利用した健康保険の高額療養費制度だ。治療や薬代のうち、自己負担額が一定額に達すると超えた分が戻ってくる。つまり、決まった額以上は負担しなくてすむ。
この上限(自己負担限度額)は、収入や年齢に応じて決まっている。70歳以上の場合、年収156万~約370万円なら月5万7600円、住民税非課税世帯は同2万4600円、さらに年金収入80万円以下だと同1万5千円といった具合だ。70歳以上は外来だけの上限もある。年収が約370万円以上と現役並みの収入がある場合は、下の表の計算式にあてはめて計算する。
年に3回以上、高額療養費の支給を受けている場合(多数回該当)は、4回目から自己負担限度額はさらに下がる。ただし前出の板倉税理士は「意外と細かいルールがあって、知らないと損する場合もある」と言う。
その一つが、医療費は月単位で計算する点。その月の1日から末日までにかかった医療費をもとに限度額を出すので、月をまたいで治療した場合は月ごとの計算となる。
「注意したいのは入院費。同じ条件でも月をまたいだ場合は、同じ月内に治療を終えた場合よりも負担が増えてしまいます。急ぎの入院は仕方ないとしても、時期を選べるならば月をまたがないほうが、負担も少なくなる可能性が高い」(板倉税理士)