写真家の福島あつしさんが宅配弁当を手に独居老人の家を訪れ、撮影した作品集『ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ』(青幻舎)を出版した。福島さんに聞いた。
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写真集を開くと、薄汚れた台所に積み上げられた鍋や食器が目に飛び込んできた。ほこりが積もり、クモの巣が張っている。
半開きとなった押し入れの中に見えるのはごみなのか、よくわからない。部屋や通路に敷き詰められた汚れた段ボール。その奥には車いすがぽつんと見える。
部屋中に散乱し、山をなす生ごみを詰めたと思われるレジ袋。すさんだ生活、というより、もはや生活することを放棄してしまったように見える。
これらはすべて福島さんが目にした独居老人の家の中だ。
自ら進んで撮り始めたわけではない。むしろ、こんな光景は「絶対に撮ってはいけない」と思っていた。
■高齢者専用弁当屋配達員
2004年、福島さんは東京綜合写真専門学校研究科に入学した。
「横浜市の日吉で1人暮らしを始めたんです。それで、何かいい仕事はないかな、と思って、アルバイト情報誌を開いたら、漢字の羅列(られつ)に目がとまった」
そこには「高齢者専用弁当屋配達員募集」と書かれていた。
「なんか、変わった仕事だな、と思って。興味をそそられた」
それは独居老人の家に弁当を届ける仕事だった。
アルバイト初日、「店長さんといっしょに車で10軒くらいまわったんです」。
そこで福島さんは大きな衝撃を受ける。
「ふだんなら、まったく気にしないで通り過ぎてしまうような玄関の前ばかりで止まった。『ああ、ここ、人が住んでいるんだ』みたいな、生気をあまり感じない家だった」
呼び鈴を押し、ドアを開けると、「もう、うわっと」。強烈なにおいにおののいた。
その奥からおじいさんがのそっと出てきた。
親族から許可を得ている場合は、部屋の中まで足を運び、弁当を届けた。
「お化け屋敷のようで、えーっ、そこに入っていくんだ、思った。汚いし、おしっこがこぼれていたりした。そこを、こんな感じで」と言い、つま先立ちで歩いて見せる。
店長から「この仕事には安否確認も含まれているんだよ」と、教わった。
「弁当屋がそんなことまでするんだ、思って、びっくりした」