みのり台駅周辺はファミリー層も多い(筆者撮影)
みのり台駅周辺はファミリー層も多い(筆者撮影)

「大変な3年間でしたが、続いた理由はオーナー(大西さん)のことを単純に尊敬していたからです。先輩たちも厳しかったですが、お店は常にいい雰囲気でした。オーナーは本当にすごいラーメンを作るので、レベルの違いを感じながら少しでも近づこうという3年でしたね」(高野さん)

 その後、「麺やBar 渦」が解散し、「渦雷」は大西さんが一人で切り盛りしていくことになった。高野さんはそのまま店に残ることもできたが、この機会に東京に戻って独立することを決意する。

 独立に向けて準備している間、親戚が千葉・松戸で数店舗営む飲食店を手伝うことになる。土日の朝から昼の時間帯が空いている居酒屋があり、その時間を貸してもらえることになった。店を構える前に、準備として“間借り”の形でラーメン店を開けられることは高野さんにとって本当にありがたかった。

 こうして19年7月、営業時間2時間半のラーメン店「麺屋 GONZO」がオープンした。一日20~30杯限定の店だった。ここで独立に向けてのメニューを試作しながら営業をした。

「冷めてくるとさらにうまみが広がる」スープは絶妙だ(筆者撮影)
「冷めてくるとさらにうまみが広がる」スープは絶妙だ(筆者撮影)

 だんだんと常連客が増えてきたこともあり、高野さんは自分の店を松戸で探すことにする。松戸駅からは少し離れているものの、同じ松戸市内のみのり台駅近くにある物件に決める。12月4日に契約し、厨房や装飾などすべて居抜きで、看板もそのまま、わずか2週間後の12月20日に勢いでオープンしてしまった。「麺響 万蕾」の誕生だ。

 提供するラーメンは「GONZO」時代のものをブラッシュアップして作り上げた。「GONZO」は営業時間が短かったこともあり、動物系のスープを仕込む時間がなく、比較的短い時間で炊ける魚介系しか選択肢がなかった。当時作り上げた煮干しのスープは、「渦雷」で出していた複雑なうまみをわかりやすく表現したもの。そこにシジミ、アサリなど貝のうまみをプラスし、芳醇なスープを完成させた。

豚チャーシュー、鶏チャーシュー、味玉、メンマ、青ネギがのった一杯(筆者撮影)
豚チャーシュー、鶏チャーシュー、味玉、メンマ、青ネギがのった一杯(筆者撮影)

 オープンしてから1年半はワンオペで切り盛りした。開店当初は閑古鳥が鳴く毎日で苦戦を強いられたが、口コミが徐々に広がり、じきに売り上げは倍になった。年末には業界最高権威ともいわれる「TRYラーメン大賞」の新人大賞煮干し部門3位、「ラーメンWalker」の新店部門2位に選ばれ、さらに話題となる。オープンからまだ2年弱だが、もはや貫禄のあるうまさ。エリアを代表する人気店に成長している。

「和屋」大久保さんは、まだ開店2年目の新店「万蕾」の味にほれ込んでいるという。

「塩分の引きがまずあり、その後にダシのうまみが広がる。スープが冷めてくるとさらにうまみが広がる。開店2年でこの味にたどり着いたのは本当にすごいと思います。手間暇かけて作っているのが一口食べただけでわかる一杯ですね。センスがあるなと思う店ってなかなか少ないのですが、ここの存在は刺激になっています」(大久保さん)

麺は細めストレート。味わいはしっかりまとまっていておいしい(筆者撮影)
麺は細めストレート。味わいはしっかりまとまっていておいしい(筆者撮影)

「万蕾」の高野さんは大久保さんの高い評価に恐縮する。

「うちのラーメンはまだまだ未完成です。ご評価いただいてうれしい半面、手放しで喜ぶのはまだ怖いですね。期待を裏切らないように、さらに頑張らないとなと思います」(高野さん)

 どちらもターミナル駅にある店ではないが、しっかり地元に愛される店に成長している。ラーメン店の原点は街に愛されることである。

(ラーメンライター・井手隊長)

○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて19年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。AERAオンラインで「ラーメン名店クロニクル」を連載中。Twitterは@idetaicho

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