
■勢いでラーメン業界に飛び込み「顔が笑ってないから、笑う練習をしろ」
千葉県松戸市稔台、新京成線みのり台駅から徒歩1分。国道281号線沿いにある人気店「麺響 万蕾(めんきょう・ばんらい)」。開店2年目ながら評価は高く、多くのラーメンファンを唸らせている。看板メニューの「白醤油ラーメン」は印象的な貝のうまみに香り高い煮干しが加わり、それを白醤油でまろやかにまとめた一杯だ。近年流行する貝を前面に押し出した貝ダシとはまた違い、複合的なうまみでオリジナリティーを出していて、素晴らしい一杯にまとまっている。
店主の高野翼さんは東京都江東区の森下生まれ。約4年間の会社員生活の後、飲食をやろうと地元の居酒屋で働いていた。ある日、友人と神奈川・藤沢の海に遊びに行ったが、運悪く台風の日に当たってしまい、海に入れなかった。せっかくならラーメンでも食べて帰ろうと入った店が「RAMEN 渦雷(うずらい)」。ここで食べたラーメンが高野さんの人生を変えてしまう。
「これほどまでにおいしいラーメンがあるのか!と感動したんです。ラーメンで感動したのは生まれて初めてでした。ちょうど居酒屋を辞めて地元から出ようと思っていたところだったので、勢いだけで2日後にはお店に電話していました」(高野さん)

思い立ったが吉日と、高野さんはすぐに修業に出ることを決め、1週間後には藤沢に引っ越していた。32歳の頃だった。
居酒屋で働いていたものの、ラーメンの経験はゼロ。「渦雷」の店主・大西芳実さんに一つ一つの行動をすべて注意される毎日。1回の指示で三つも四つも注意されるので、頭が毎日パニックになっていたという。
「特に印象に残っているのは『顔が笑ってないから、笑う練習をしろ』と言われたことです。当時は反抗していましたが、今思えばお客の目線に全然立てていなかったんですね。ラーメンを作る以前の問題でした」(高野さん)
高野さんの仕事は仕込みと片付けからスタートし、3カ月ほど経ってから少しずつラーメン作りに携わらせてもらえるようになった。「渦雷」は藤沢エリアを代表する人気店。それは、「ただのラーメン屋」というレベルではない。店のレベルについていくのも本当に大変だった。大西さんの仕事は本当に細やかで、スープやタレを一滴も無駄にはしない。基礎をしっかり身に着けて、途中からは本店の「麺やBar 渦」でも働くようになり、自家製麺も学んだ。修業は3年間。密度の濃い時間だった。