しかも母側には支配した覚えなどみじんもない。なぜこんなにもゆがんだ関係性になってしまうのだろうか。
信田さんによれば、その理由は、団塊の世代以上の夫婦関係に起因するという。
「団塊世代は恋愛結婚が主流になり始めた年頃。夫は企業戦士で、子育ては妻の仕事。問題があるなら、それは『育て方が悪い』。もちろん妻は反発しますが、満足のいく結果は得られず、やがて夫に期待しなくなる。その一方で、この夫を選んだのは自分なのだという自責の念もある。結果、『この子は私が何とかする!』とすべてを背負い込み、先回りした過干渉や支配へと結びつくのです」
著書に『母は娘の人生を支配する』(NHKブックス)などがある精神科医・斎藤環さんはこう語る。
「『親ガチャ』という言葉は、子どもの側に一切の選択肢がないことを意味しますよね。その点、親の側には選択肢がある。結婚の選択をしたのも親なら、子どもを産む・産まないの決断も、どう育てるかも、親にかかっている。だから『子ガチャ』は成立しないんです」
斎藤さんによれば、基本的な自己肯定感や自尊感情を醸成する上で親の影響は大きい。肯定されずネガティブなことばかり言われて育った人は、大人になってから自尊感情を再生しようとしても多大なコストがかかるという。
「深刻な場合は治療やカウンセリングが必要です。そこまでではなくても、自力で何かを成し遂げて、自分を肯定できるだけの自信を身につける必要がある。自己肯定感は自我の土台ですから、それが親によって損なわれたとわかれば、恨まれても仕方がないでしょう」
先に紹介した娘(1)の徹底して娘を認めない母親はその典型だろう。それでいて対外的には娘自慢をする心理とは、どういうものなのか。
「娘を所有物とみなしているんです。だから他人には持ち物自慢をしたい。しかし所有物でい続けてもらうためには、自立してもらっては困る。だから絶対に肯定はしません。もはや虐待レベルの共依存ですが、娘が母から離れられないのは『このろくでなしは私がそばにいないとダメなの』とDV夫から離れられない妻と同じ図式です」
母娘問題には、日本と韓国だけに見られる特徴もあるという。その背景にあるのは儒教的思想だ。