◆これからの時代、頼れるのは「友達」
「娘も私も口が達者。それは激しい舌戦を繰り広げることもありますよ。彼女が子どもだったころ、私が毎日世話を焼いていた同じことを、今私が言われてる。やれやれですよ」
そう話すのは、NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」の理事長を務める、評論家の樋口恵子さんだ。
樋口さんが、同会・広島(春日キスヨ代表)がまとめたひとつの調査データを示してくれた。コロナ前と後で、高齢者の意識と行動がどう変わったか、という調査だ。マイナスなことが多かったコロナ禍で、プラスな経験だったと思うことは何か?との問いへの回答が下のグラフ。75歳以上で見ると、第1位は「当たり前の日常のありがたさ」、第2位は「友人のありがたさ」である。
「私たち世代にとって、友情というのはもっぱら男のものだったんです。それが今や、高齢女性にとっても家族と変わらないほど大切でありがたい存在になっている。これは特筆すべきこと。高齢社会で母と娘が密接に過ごす時間が長くなった。家庭が密室になってしまうとストレスの行き場がない。だったら、友達に会いに行きましょうよ」
樋口さん自身、娘と衝突して落ち込んでいるとき、家に出入りするスタッフの言葉に救われるという。
「娘さんは言葉はきついが、本当に優しい人ですよ、て言われるとね。母としては本当に救われた気になるし、誇らしくもなる。親バカですが、いがみあうのに手いっぱいになっているところへ、第三者の視点が持ち込まれるのは本当にありがたいことです」
当事者ではない誰かに、つらい気持ちを聞いてもらうのは大切だ。樋口さんのように、第三者から意見をもらうことが、どれだけ救いになることか。
「世間から、子どもから、夫から、親戚からも責められる母親。それでいて誰も『よく頑張ってきたね』と言ってくれる人はいない。そんな理不尽ってある? 今は全国に電話やネットで相談できるところもたくさんあります。原宿カウンセリングセンターでは母親だけを集めたグループカウンセリングもリモートで行っている。まずは電話一本かけることから始めればいい、と知ってもらいたいですね」(信田さん)