それほど娘を認めないのに、対外的には「恥ずかしいほど」の娘自慢が止まらないのだという。

「勤め先が大手だとか、年収が何百万だとか。恥ずかしくて、母の友達には会いたくないんです」

娘のケース(2)

 最後のケースは千葉県に住むNさん(56)。88歳になる母は認知症を患い、バツイチ独身の姉(62)が同居して面倒をみている。

「『いい会社に勤める高収入の男性を捕まえるのが一番の幸せ』って刷り込まれて育ちました。子どものころ、お尻にアトピーが出ただけで『もうお嫁に行けない』とまで言ってたくらい」

 就職はしたものの、ほんの腰掛けで結婚退職。夫の転勤であちこち転居し、母から離れた。

「大阪でイキイキとパートの仕事に打ち込んでいる元気なおばちゃんたちに出会ったとき、初めて『私の人生、何だったんだろう』と。それでようやく解放された気がしたんです。今は地元に戻ってパートをしていますが、生まれて初めて、真剣に仕事に取り組んでいます」

 母のケース(1)をのぞけば、どの母も娘も何だか生きづらそう。

◆ゆがんだ関係性 団塊世代から上

信田さよ子氏
信田さよ子氏

 1995年に原宿カウンセリングセンターを開設し、現在は顧問を務める臨床心理士の信田さよ子さんは「母娘問題に正解ナシ」と断言する。

「世間の目から見れば毒母やDV夫は歴然と加害者側ですよね。でも長年カウンセリングしてきた経験から言うと、どちらかが一方的にうそをついている、というケースはまずないんです」

 ではなぜ、世の中にあふれる母娘問題の書籍や記事は、娘サイドに同情的なのか。それは娘のほうが、社会的に圧倒的に弱い立場にいるからだという。

「『あなたのためを思って』。これはすべての母娘問題に共通する言葉。このひとことでどんなことも『愛』になる。そこに『母の』が加われば、もはや無敵の呪文です。母の愛を素直に受け取れない娘は、社会的に非難の対象になってしまうんです」(信田さん)

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