「麺や 河野」の看板メニュー「醤油ら~めん」は一杯790円。煮干しや魚介のうまみがあふれている(筆者撮影)
「麺や 河野」の看板メニュー「醤油ら~めん」は一杯790円。煮干しや魚介のうまみがあふれている(筆者撮影)

「七彩」の修行時代からのこだわりもあり、麺は自家製麺と決めていたが、河野さんには製麺機を買う資金がなかった。そこで挑戦したのが手打ち麺だ。そば打ちの教室に通い、手打ちの勉強をし、苦労してオリジナルの麺を完成させた。

「名店『七彩』の出身ということもあり、開店してすぐたくさんのお客様に来ていただきました。オープンして1年ぐらいは緊張でほとんど記憶がありません。自分の店となると全て自分の責任でやらなくてはならない。フォローしてくれる人もいない。重圧に毎日押しつぶされそうでしたね」(河野さん)

 中村橋で8年間営業し、その後は東京都板橋区の赤塚に移転する。プライベートでは結婚もし、妻とともに以前より広い店に移転することにした。その頃には製麺機も買うことができ、自家製麺にさらに磨きをかけた。

「前の倍ぐらいの広さで、家賃も上がりましたし不安でしたが、地元で店をやれることの喜びを感じています。いろんな食材を試して醤油ラーメンをバージョンアップさせました。メインは麺に置き、それに負けないスープを開発しました」(河野さん)

「七彩」イズムを継承し、その食材ごとにベストな使い方を意識している(筆者撮影)
「七彩」イズムを継承し、その食材ごとにベストな使い方を意識している(筆者撮影)

 開店から12年。円熟味さえ感じるその一杯は、今や地域になくてはならないものになっている。

「金町製麺」の長尾店主は、先輩である河野さんの真っすぐさに引かれている。

「修行時代に苦楽を共にした先輩で、『七彩』の一番弟子として七彩イズムを継承しています。『七彩』のブレーク直前から働いていたこともあり、初期の『七彩』を感じる一杯です。すごく真面目にラーメンに向き合う姿が印象的です」(長尾さん)

自家製麺はゆでる前に一玉ずつ丁寧に手もみしている(筆者撮影)
自家製麺はゆでる前に一玉ずつ丁寧に手もみしている(筆者撮影)

 河野さんは長尾さんのセンスの良さに一目置いている。

「『七彩』の中でもとにかくできるやつで、料理の素養もあり、私も包丁の使い方を教えてもらいました。卒業する時には包丁をもらいましたね。自分の知識とラーメンへの情熱が見える彼らしいお店をやっていると思います。手打ち麺など『七彩』のノウハウを器用に生かし、彼なら大丈夫だ、任せてみようと思わせてくれる職人ですね」(河野さん)

 同じ名店「七彩」から生まれた2人の職人。それぞれのエリアで自分の強みを生かしながら、地元のお客さんの舌をうならせている。(ラーメンライター・井手隊長)

○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて19年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。AERAオンラインで「ラーメン名店クロニクル」を連載中。Twitterは@idetaicho

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