■すでに「分断」生じる

 55年前の吉田茂の国葬では、政府は各省庁に弔旗掲揚や黙祷を求め、学校や一般の会社にも協力を求めた。今回、政府は「民間に弔意表明を要請しない」と強調する。だが、宮間教授は、国を挙げて葬儀をする以上、影響が出ないことはあり得ない、何らかの影響が及ぶことは必然的にあり得ると語る。

「すでに、国葬を行うことで国民が分断される状況が生まれています」

 7月12日に安倍氏の私的な葬儀が増上寺(東京都港区)で行われた際、政府が指示を出したわけではないが、いくつかの自治体の教育委員会が学校に対し半旗の掲揚を要請した。今度の国葬でも、同様の事態が起き得るだろうという。

 民間企業でも同じだ。例えば、経営者や上司が国葬に賛成の立場だった場合、黙祷などを求められる可能性もある。その際、国葬に反対だったり、興味がなかったりする人がどれほど従わずにいられ、内心の自由を守ることができるのか。国葬が終わった後も、「あいつは右だ、あいつは左だ」というレッテル貼りが始まるのではないかと懸念する。

「私は、安倍氏に限らず国葬そのものが不要だという意見です。一方で、国葬が必要、安倍氏の国葬に賛成という意見もあります。重要なのは、賛成派も反対派も内心の自由が守られなければいけないことです。弔意を示さないことも、示すことも強制されてはいけない」

 そして、こう続けた。

岸田首相は、かつて戦争に動員するために用いられたことのある儀式を、何の検証もなしに何のルールもないまま今日に蘇らせました。その事実を、国民一人一人が考えてほしい。民主主義を守るためにも、大事なことだと思います」

(編集部・野村昌二)

AERA 2022年9月26日号

著者プロフィールを見る
野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

野村昌二の記事一覧はこちら