週刊朝日 2022年9月23・30日合併号より
週刊朝日 2022年9月23・30日合併号より

■自分の運転機能 確認する機会に

「最近は『両親に免許返納させたい』という相談も増えていますが、私は本人に運転の意思があれば運転を続けてもらいたいと考えています。ただ視力が落ちたり、ヒヤッとしたりした経験からご自分で『もう危ないから返すよ』という選択をする方もいる。『認知症』という言葉にとらわれず、免許更新を自身の運転機能を確認する機会と捉え、ご本人にも自覚してほしいのです」(長さん)

 いっぽうで「免許は絶対に返納してはならない!」と話すのが、精神科医の和田秀樹さん(62)だ。長年、高齢者医療に携わってきた経験を持つ。

「ひとつには明らかな『年齢差別』にあたるからです。年齢を理由にその人の機会を奪ってはいけない『年齢差別禁止法』はアメリカを始め世界で常識になりつつあるのに、日本は遅れている。検査をやるのなら、更新時に全員にやらせればいい」

 高齢ドライバーの事故に関するデータも重視する。警察庁の発表によると高齢ドライバーが死亡事故を起こすのは年間1万人に1人ほど。多くは自損事故で、他人を巻き込んではいない。人をはねる死亡事故は5分の1程度なので、高齢でないドライバーと人をはねる割合はほとんど変わらないのだ。

「僕も普段運転をするからわかるけど、高齢者マークを付けている車は自分の運転能力の低下がわかっているから、ゆっくり安全運転が多い。実話をもとにした映画『運び屋』で90歳のクリント・イーストウッドが麻薬の運び屋として重宝されるのも、安全運転の腕を買われたからですしね」

 さらに驚きのデータもある。19年に発表された筑波大学の市川政雄教授らの研究で、高齢ドライバーが免許を返納すると、6年後の要介護率が2.16倍も高くなることがわかったのだ。

「先日も農業をやっている高齢者の主治医から相談を受けました。認知機能検査の結果でその人に認知症の診断をしたら、免許が更新されなかった。しかし免許を取り上げられたらトラクターも運転できない。仕事ができないことで落ち込んで、どんどん鬱っぽくなってしまったと。もうこれは高齢者いじめでしかない」

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