
運転をやめたことで家に引きこもり、足腰が弱り、活動意欲が低下することで認知症が進行する原因にもなるという。
「認知機能検査で悪い点を取ったから普段の生活ができていないか、運転できていないかというと、そんなことはない。認知機能の低下と運転能力はそんなに強く相関はしないんです。認知症にもさまざまな段階があり、中等度の認知症であれば、昨日までできていたことを今日こなすことはできる」
ただ年齢とともに運転に必要な注意力、判断力、空間認識力、情報処理能力、判断力や反応能力が落ちてくるのは事実だ。だが和田さんは、加齢だけが原因でない可能性もあるという。
■事前にしっかり検査内容を知る
「運転中にぼんやりして高速道路で逆走をしたり、いわゆる暴走運転で起こる事故は、僕が見るところ『医師による薬の飲ませすぎ』です。普段から逆走や暴走をしない人が起こしているからです。血圧や血糖値が下がりすぎると頭がぼんやりする。精神安定剤(抗不安薬)でも同様の状態になることがある。また高血圧だからと塩分を控えすぎて低ナトリウム血症を起こしていると、やはり意識障害を起こします」
眠気の副反応が記載されている風邪薬や花粉症の薬はもちろんのこと、飲んでいる薬を見直したほうがよさそうだ。
脳を若々しく保つために和田さんが勧めるのは「肉を食べる」「日の光を浴びて神経伝達物質セロトニンを増やす」「一日の出来事を思い出しながら日記を書く」「映画や音楽に触れるなど、前頭葉に刺激を与える」などだ。さらに運転に不安があっていまは運転していなくても免許を返納せず、「認知機能検査」をクリアし、免許を持ち続けたほうがいい、という。
「いまはサポカーと呼ばれる運転補助機能付きの車もありますし、5年ほどすれば車の完全自動化も進むはずです」
免許更新を目指すならば、まずは検査内容を事前にしっかり知っておくことだ。対策本も多く出ている。16枚の絵の組み合わせは4パターンあり、すべて警察庁のホームページに載っている。脳トレ感覚でトレーニングすることも手だ。
そして70歳を過ぎたら、とにかく違反をしないように注意すること。スマホで通話しながらの運転など「一定の違反歴」11種類のうち、ひとつでも違反があると「認知機能検査」に加えて、実技テストである「運転技能検査」に合格しないと免許が更新できなくなる。前出の長さんは言う。
「運転に不安があるペーパードライバーは家族の方と広い郊外に行って練習するのもいい。70歳以上に向けて『運転技能検査簡易教習』を行っている教習所もあります」
免許返納はケース・バイ・ケース。あくまでも自分で判断すべし、と長さん。
「地方に住んでいるか都会か、どの頻度で乗っているか、自分自身に不安があるか、十分加味した上で、ご自身が判断してほしいと思います」

(フリーランス記者・中村千晶)
※週刊朝日 2022年9月23・30日合併号