本当の草原の姿を知ったのは2度目の訪問のときです。ハイラルで知り合ったウインダライ先生が私の病院に6カ月留学しました。帰るときに、「一緒にハイラルに行きましょう」と誘うのです。毎晩の酒を交わす仲になっていたので、二つ返事で承知しました。
1989年7月に再び草原に立ちました。この時はすばらしかったです。空の青、雲の白、草の緑の三色の世界です。なかでも、空一面に広がるダイナミックな雲のシンフォニーが心に響きました。そこには出会ったことのないエネルギーの高さがありました。
私はその当時、人は虚空から来て虚空に帰るのだという思いを持つようになっていました。ですから、虚空とはどんなところだろうかと、いつも考えていたのです。
草原に立ち、そのエネルギーの高さにふれたとき、この先に虚空があると実感しました。
内モンゴルの草原は、私にとって、すぐそこに虚空を感じることができる場所なのです。また来ようと決意して帰り、30年通いました。来年こそはまた、草原に立ちたいと思っています。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2022年9月9日号