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 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回は「来年こそは内モンゴルに」。

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【虚空】ポイント

(1)内モンゴルに30年間、2年に1回必ず通ってきた

(2)本当の草原の姿を知ったのは2度目の訪問のとき

(3)草原に立つことで、すぐそこにある虚空を実感した

 私には、来年こそは是非、実現させたいと思っていることがあります。内モンゴルに行って、虚空と再会したいのです。

 内モンゴルには、30年間にわたり、2年に1回は必ず通ってきました。ところが、コロナのお陰でこの3年間、行くことができないでいるのです。

 私が最初に内モンゴルを訪問したのは、1987年です。ホロンバイル草原の中心都市であるハイラル市にがんセンターが設立されることになり、その記念講演会に講師として招聘されたのです。友人である北京市がんセンターの李岩先生の推挙によるもので、北京で落ち合った李岩先生と36時間汽車に乗って、ハイラル市に向かいました。駅に着いたのが夜中の午前3時。それなのに駅が人でごったがえしています。何事かと思ったら、みんな我々の出迎えに集まってきたというのです。すごい歓迎です。

 講演だけでなく、手術もしてくれと言われて困りましたが、とにかく日程を終えると、みんなで草原にピクニックです。

 草原は真昼の陽炎のなかで眠っていました。その一角で酒宴が始まりました。羊の丸煮がいくつかのブロックに分けられ配られます。それをナイフで削り、馬乳酒を飲みながら食べるのです。この馬乳酒はアルコール2.5度ぐらいですが、じつに上品な味わいです。

 草原に目を移すと、ずっと向こうの彼方に小さい黒い点があります。目を凝らすと、それがだんだん大きくなってきて、人馬の形になります。映画『アラビアのロレンス』のシーンです。それにいささか感動しましたが、その時はまだ、また来てみたいとも、思っていなかったのです。

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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