ヒンドゥー教徒を中心としたベジタリアン(菜食主義者)の食生活も「沼」の魅力のひとつだろう。
インド食品卸業「アンビカコーポレーション」(東京都台東区)のヒンガル・ニッティン社長(50)は、こう話す。
「コロナ禍で自宅で料理を楽しむ人が増えたためか、オンライン販売が好調です。年々、インド熱が高まっていることを感じています」
ニッティン社長は、北部のラージャスターン出身。1995年、24歳で宝石商として来日した。当時の日本にはまだベジタリアンの価値観がなく、レストランにもファストフード店にも食べられるものがなかったという。自炊に必要なスパイスも手に入らなかった。
「だったら自分でやろう」と、98年に同社を創業。現在、都内3カ所に店舗を構え、扱う食材は約1千種類という国内最大規模にまで成長した。取引先の半数は日本企業もしくは日本人だという。
アーユルヴェーダも忘れてはいけない。ハーブ(薬草)やスパイスを利用し、体本来の治癒力を高めるインドの伝承医学だ。食生活のほか、外科的な治療でも使われる。
冒頭の坂田さんは、福岡県出身。ニューヨークで働いていたときにインド人のアルヴィンドさん(50)と出会い、01年に結婚。05年、夫婦そろってインドに移住した。当時40歳。ひどい腰痛持ちだったが、移住後にアーユルヴェーダのオイルマッサージを受け始めたところ、わずか半年ほどで完治したという。
「ライフスタイルを見直す契機になりました。肌も荒れやすい敏感肌だと思っていたけれど、アーユルヴェーダ処方のシンプルなスキンケアにしたら治った。化粧品に含まれる添加物に負けていただけでした」
現在、坂田さんは洗髪もシャンプーと数日に一度のオイルマッサージのみ。メイク落としは、ココナツオイルを顔につけてマッサージするだけという。
経済発展に加え、文化や芸術、食事、美容も。「インド沼」を知れば知るほど、深みにはまっていくのもうなずける。東洋大学の沼田一郎教授(インド学)は、こう語る。