■「つらい」と言っていい

 コロナ関連の恐怖や不安をきっかけに、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症する人もいる。井上さんは言う。

「恐怖症が他の人にとってはなんてことないものを恐怖の対象とするのに対して、PTSDは災害や犯罪など明らかに命の危険にさらされた後、鮮明に思い出すフラッシュバックの症状が表れます。記憶の冷凍保存と呼ばれ、再体験に苦しめられます」

 イタリアの調査では、コロナ重症者の3分の1が、PTSDを経験すると報告されている。

「私は診察したことがありませんが、コロナで生死の境をさまよったことが恐怖体験になって、それがトラウマになるのだと考えられます」(井上さん)

 過酷な医療現場でPTSDになる医療スタッフもいる。保健師紹介業エムステージの保健師、本田和樹さんがこう話す。

「ある病院でコロナ感染第1号になった看護師がうわさをたてられて、PTSDになりました。コロナ対応で逼迫した別の病院では、担当していた入院患者がコロナ陽性だと判明した看護師が、自分自身の感染の可能性が高まり、PTSDとうつ病を発症して、仕事をやめた事例もありました」

 約2年間、コロナ禍が社会を覆っている。感染症そのものだけではない不安や恐怖が人々をむしばむ。井上さんは言う。

「コロナでみんなが大変なのに、私だけつらい、怖いと言っていられないと思ってしまいがちです。でも、つらかったら受診してください。早く治療すれば、寛解できます。症状と付き合いながら日常生活を送っていく選択肢もありだと思います」

(編集部・井上有紀子)

AERA 2022年1月17日号より抜粋

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