妻から夫へのモラハラ被害が深刻化している。女性の社会進出に伴い、男性が加害者、女性が被害者という構図がかわりつつあるのだ。モラハラはジェンダーの問題ともいいきれなくなってきている。今回は被害者男性から話を聞いた。
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「ただいま」
仕事を終えた夜に家に帰ると、妻は子ども2人と先に夕飯を済ませ、風呂上がりの子どもたちを寝かせるところだった。「おかえり」の一言はない。
一人テレビに向かい、妻と子どもが食べた後の残り物をつつく、いつもの冷めた夕飯。食べ終わると、全員分の食器を洗い、風呂に入る。妻と子どもたちが寝る部屋とは別の自室に入ると、長いため息が出た。今日もまた、妻と子どもと、一言も会話を交わすことなく、1日が終わっていくーー。
神奈川県在住の会社員、Bさん(43)。2歳年下の妻とは結婚8年目だ。6歳と4歳の子どもと4人暮らしで、仕事や子育てで忙しい日々を過ごしながらも、幸せな日々を送っていた。ところがある日を境に、妻がBさんを無視するようになった。妻の機嫌は、1~2日したらケロッと直ると思っていた。ところが1週間経っても、半月経っても、まるで自分がそこにいないかのような無視が続いた。
「なんで無視するの?」「きちんと話し合おう」「僕が悪かったなら謝る」と何度も妻に呼びかけたが、こちらを見ようともしない。一体、僕たち夫婦の間に何が起こったのか。
きっかけは、些細なことだった。休日に、洗濯物をたたんで片付けている時のことだった。妻は「たたみ方が私のやり方と違う」「たたむのも遅すぎる」と言った。Bさんは雑に扱ったつもりはなく、疲れ気味だったこともあり、「そんなに言わなくても、たためていたら良いでしょ?」と何気なく返した。すると妻は、怒りに満ちあふれた低い声で、こう言い放った。
「これだから何も頼めないのよ。あんたって、私の苦労を知ろうともしてないでしょう」
こうした喧嘩は初めてではなかった。子育て中、特に共働きの夫婦にはよく見られる日常の些細な言い争いだ。Bさんも妻に何か言い返したかったが、火に油を注ぐことになると思い、ぐっと堪えた。
すると、妻は今までに見たことがないほど冷たい目でBさんを睨み、「もう口も聞きたくない。なるべく関わらないようにする」と静かに言った。