◆夫の布団だけが廊下に
Bさん夫婦は共働き。妻は自宅で仕事をしていた。Bさんは平日は朝から夜まで会社で働いているため、家事や子育ては、どうしても妻に負担がいきがちだった。だから早く帰れる日や休みの日には、できる限り家事をしたり、子どもと遊んだりと、Bさんは自分なりに努力してきたつもりだった。その日の洗濯物も、自分としては丁寧にたたんでいるつもりだった。
「確かに今、家や子育てのことは妻に負担がいきがちだが、自分も外で遊んでいるわけではない。飲み会に誘われても基本的には断るようにし、少しでも家にいる時間を増やして妻の負担を減らそうと頑張っていたのに」
Bさんは妻から強い口調で非難されることは心外だった。だから「妻は疲れているんだろうな」くらいにしか思えず、明日からまた同じ日常が続くと信じていた。
ところが……。
次の日、会社から帰宅すると、家族4人で寝ていた和室から、Bさんの布団だけが廊下に出されていた。それから、もう半年が経とうとしている。子どもたちも最初は両親の様子に戸惑っていたが、だんだんとBさんによそよそしい態度を取るようになった。まるでBさんがそこにいないかのように振る舞う妻と、自分に寄り付かない子どもたち。3人の世界に、自分だけが入れない。
そのうちリビングにさえ居づらくなり、自宅が安らげる場所ではなくなった。両親や義両親に相談しようかと思うが、それが妻の耳に入れば、告げ口したと取られかねない。ますます妻の心は閉ざされ、子どもたちにもっとあらぬことを吹き込まれるかもしれない。友人や同僚にも、「妻から無視されている」なんて情けなくて相談できない。出口の見えない暗いトンネルにたった一人、迷い込んでしまったかのようだーー。
◆増える男性からの相談
一昔前まで、夫婦間のモラハラといえば、夫から妻に対する行為だという認識が強かった。だが昨今は、妻から夫へのモラハラが増加傾向にあるという。2020年度の司法統計(婚姻関係事件数申し立ての動機別申立人別)を見ると、男性の離婚動機は1位の「性格が合わない」に続き、「精神的に虐待する」というモラハラが2位に上る。近年、妻を恐れるがあまり自宅に帰りづらい夫を表す「帰宅恐怖症」や「フラリーマン」といった言葉も聞かれるようになって久しいが、そうした言葉では片づけられないような夫へのモラハラは深刻化しているという。