撮影:米田堅持
撮影:米田堅持

 さらに特救隊の取材には特有の難しさがあり、「撮らせてもらえるまでには、かなり時間がかかる」と、説明する。

「特救隊といえば、『救難』のイメージが強いんですが、彼らは『捜査』にも携わるので、『外に出せない話』というのが常に、何らかのかたちで転がっている。そこへ踏み込むわけですから、信用できる人物でないと、彼らのなかには入れてくれません」

 今回の撮影は、海上保安庁の外郭団体である海上保安協会からの依頼、というかたちで行われたが、その背景には長年の取材で得てきた信頼関係がある。

 特救隊の取材を始めたのは2020年。しかし、すんなりとは進まなかったという。

「撮影の予定を組んでいても、いきなり電話がかかってきて、『ごめん、今日はだめ』とか。行ってみたら、いなかった、とか(笑)。緊急出動によるドタキャンはちょこちょこ」

 ふつうの撮影であれば、理由をたずねるところだが、「救助の準備で忙しいし、捜査だったら絶対にしゃべれないから、そこはあえて聞かない」。

撮影:米田堅持
撮影:米田堅持

■現場の「お作法」を知る

 撮影が難しいのは隊員の姿だけではない。彼らはさまざまな航空機に搭乗して救難活動を行うが、その機体を写すには「偉い人をなんぼ知っていても、だめなんですよ」と言う。

「むしろ、整備の現場を取り仕切っているベテランの方ときちんとお話できる人間関係を築かなければ撮影できない」

 さらに、機体整備のローテーションや作業工程を押さえておくことも不可欠という。

「例えば、新旧のヘリコプターを並べて撮りたい場合、整備長に依頼するわけですが、きちんと相手の事情を知ったうえでお願いしないと、『仕事の邪魔だから、帰れ!』となっちゃう。いかにそうならないようにするか、現場の『お作法』をきちんとつかんでおかなければならないと」

 話を聞けば聞くほど、一朝一夕に撮らせてもらえるような相手ではないことが伝わってくる。

「彼らは海上保安学校や海上保安大学校に入学したときから守秘について、厳しくたたき込まれる。例えば、巡視船の速力は絶対に言ってはだめ。巡視船がどこかの港に入ったとき、『俺、ここにいます』って、SNSとかに書いてはだめなんですよ。そういうことをずっと積み重ねてきた相手と信頼関係をつくらないと撮らせてもらえない」

 それだけに、観閲式などで公開される姿とは違う、特救隊の素顔を写した作品は貴重といえよう。

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】米田堅持写真展「特救 オレンジの頂点」
ポートレートギャラリー(東京・四谷) 2月10日~2月16日