一方、漫画家の赤塚不二夫氏は「マンガ馬鹿なんだ、ぼくは」と、今後の転身については否定しつつ、ダブルプレーをとられて「モッタイない」という表情をする長嶋氏に、こんな共感を示す。
<実生活の長島は大邸宅に住んでいるけど、包装紙やそのヒモを捨て切れずになんとなくしまっておくのとちがうだろうか。食事をしても、若い連中が米粒をいっぱいつけた茶碗を残して席を立つのが許せないんじゃないだろうか>
戦中・戦後の貧しさを知る世代としての連帯感があったようだ。
政界では、前首相が逮捕される大事件が起きた。田中角栄氏が受託収賄と外為法違反の疑いで逮捕されたロッキード事件である。
本誌は76年8月13日号で「戦後最大の衝撃、田中逮捕で政界地図に大変動が起こる 『田中角栄』全研究」と題した大特集を組んだ。中でも興味深いのは田中金脈を追及したジャーナリストで評論家の立花隆氏の田中観だ。
<田中と交際のあったある高級官僚の言ったことだが、「田中は、田舎のオジサンだ」というのだ。つまり「自分にも田舎にオジがいるが、身内のオイやメイが訪ねてくると、ホイホイ金をやる。田中はこれと似ている」>
<金を渡すことのためらいも嫌悪感も田中にはない。(中略)“(中略)政治の世界でものをいうのは金だ”という先入観ができていた。それは、土建業出身だったことによる。(中略)この間田中は「贈賄側」の者として政治をみて、金の力を体験的に知った>
田中氏と時事通信記者時代に親交があった政治評論家の屋山太郎氏は、こう評する。
「政治倫理をこんなにダメにした人はいない。倫理観ゼロだ。全てが金。僕は角さんが(図面に)新幹線の線を引くのを見たからね。線を引いた場所に必ず新幹線、自動車道路が必ず通る。それを選挙のときに高く売って、次の選挙で隣を売る。総理というより政商だ」
立花氏は<今回の田中逮捕は、日本の腐敗した政治構造を改める格好の突破口として大いに意義あることだと思う>と結んだが、現代の永田町でも政治資金にまつわる事件が相次ぐ。「金権体質」はなんら変わっていない。
(本誌・村上新太郎)
※週刊朝日 2022年2月25日号