<百二十九席満員の機体が、上昇位から水平位になり、「No Smoking」、ついでベルト着用サインが消えたとたんに、何か前方がざわめき、まもなく機体の廊下の中央部に二、三人の若者が立上がり、日本刀を抜刀しているのが見えた>

 犯人の一人が「静かにしないと全員の生命は保証しない。騒げば、爆弾を持っているから皆と生死をともにする」とアナウンスし、乗客は麻縄で後ろ手に縛られた。そんな中での日野原氏の冷静さも印象的だ。

<こういうときに脈はどうなるかと思ってはかったところ、平素よりは十多く、一分間八十五の脈であった。やはり興奮しているためかなと思った>

「希望があれば読書を許す」と言われ、犯行グループが持ち込んだ『カラマーゾフの兄弟』の文庫本を借りるなど、両者の間には不思議なやりとりも起きる。同じ空間で80時間も共有したためか、こんな心境になったという。

<双方が、この飛行機という限られた共同の空間の中に生活をともにしたのである。生命をともにしなければ、どちらも生きてゆけないという不思議な現実。乗客にとってはにくらしい、そして乗客の家族にとっては更に更にはげしいいきどおりを感じる赤軍派一行と、われわれ乗客とが、時間をつむにつれて、人間的なハダのふれあいを感じた>

 74年10月14日、プロ野球界最大のスターだった巨人の長嶋茂雄が「我が巨人軍は永久に不滅です」の言葉を残して引退する。本誌は11月1日号で「長島引退で問われる38歳・男盛りの分かれ道」という特集を掲載した。

引退の日、球場内を一周してファンにあいさつする長嶋茂雄氏
引退の日、球場内を一周してファンにあいさつする長嶋茂雄氏

 長嶋氏と同じ38歳の各界著名人に、人生の「曲がり角」について聞いていくという企画である。当時、参院議員になっていた落語家の立川談志氏はこう証言している。

<二年ほど前だったなあ。ガク然としましてね。長島のガクッと来たのより、ちょっと早いけど早熟(ませ)てたのかな。

 でも思い当たるんですよ。男が、酒がまずくなるってときは、他へ色気が出んですね。女じゃありませんよ。他の仕事とか。人生へのあせりが出てくる>

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