くの・ともみ/大阪府生まれ。フリーアナウンサー、「女子鉄」。フォトライターとしても活躍。8月に『東急電鉄とファン大研究読本』を上梓(photo 本人提供)
くの・ともみ/大阪府生まれ。フリーアナウンサー、「女子鉄」。フォトライターとしても活躍。8月に『東急電鉄とファン大研究読本』を上梓(photo 本人提供)

 旅は基本的に一人旅。列車内では地元の乗客の会話に耳を傾け、自分は地元の人のような空気感を出して癒やされる。別の人生を味わう感じなのだという。

 地方鉄道の魅力は?

「非日常との出会いです。景色との出会い、人との出会い、食べ物との出会い。触れ合うことで感動を覚え、思考を整理することができます」

■「日本じゃない!」景色

 久野さんが次に挙げるのは、愛媛県と高知県の山間部を結ぶJR予土(よど)線の北宇和島-若井間。輸送密度は205人に過ぎないが、まさに非日常を堪能できる区間だという。

「日本じゃない!と思うくらい、車窓からの景色がきれいです」

 列車は、右に左に四万十川を見ながら走る。見渡す限りの空と川。久野さんが初めて予土線に乗ったのは、3年前の夏。絵の具で描いたのかと思うくらい、見事な深い緑に心を奪われた。

【予土線】
北宇和島-若井
(JR四国)
「トロッコは、国鉄時代の貨車を改造しています。貨物好きの私としては、そういった点もすごくポイントが高いです」(久野さん)
(photo JR四国提供)
【予土線】 北宇和島-若井 (JR四国) 「トロッコは、国鉄時代の貨車を改造しています。貨物好きの私としては、そういった点もすごくポイントが高いです」(久野さん) (photo JR四国提供)

 ここには、鉄道デザイナーの水戸岡鋭治さんがデザインしたトロッコ列車「しまんトロッコ」も走る。魅力は、ダイレクトに土地のにおいを感じられるところ。列車がトンネルに入った時の「ガタン、ガタン」という音も楽しいと、声を弾ませる。

 久野さんは最後に、福岡県と大分県の県境をまたいで走るJR久大(きゅうだい)線の日田-由布院間を挙げる。20年度は豪雨で運休となっていたが、翌21年3月に全線で運転を再開した。

「『鉄分』の高い路線です」

 普通列車のほか、観光列車の「ゆふいんの森」や「或る列車」、「ななつ星in九州」も走り、列車の乗り比べができるという意味だ。

【久大線】
日田-由布院(JR九州)
この区間は観光列車の「ゆふいんの森」や「或る列車」も走る。写真は旧豊後森機関庫に静態保存されているSL29612号(photo 大分県玖珠町観光協会提供)
【久大線】 日田-由布院(JR九州) この区間は観光列車の「ゆふいんの森」や「或る列車」も走る。写真は旧豊後森機関庫に静態保存されているSL29612号(photo 大分県玖珠町観光協会提供)

 途中下車もお勧めだという。中でも豊後森駅。駅舎から300メートルほど離れた豊後森機関庫公園に、旧豊後森機関庫がある。国鉄時代に使われた蒸気機関車(SL)を格納する扇形の機関庫で、転車台が残り、「キューロク」の愛称で親しまれたSL29612号が保存されている。屋外にありながら、ピカピカ。スタッフや地元の人によって大切にされているからだ。久野さんは言う。

「地方鉄道はどこも大変ですが、こうして地元の人に支えられているのを見ると、鉄道への愛情の深さに感銘を受けます。私にとって乗りたい鉄道というのは、応援したい鉄道でもあります」

 話を聞いたあと一人は、鉄道ジャーナリストとして活躍する松本典久さん(67)。幼少期から鉄道の魅力にはまった、根っからの鉄道好きだ。地形に逆らわず等高線に沿うようにS字に敷設された地方の線路に特に魅せられるという。新幹線のように直線で、トンネルと高架橋が多い線路は趣に欠けるとのことだ。

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