最大の魅力と言うのが、同区間の途中にある出雲坂根-三井野原(みいのはら)間の「3段式スイッチバック」。駅間は直線距離で1キロだが、高度差は162メートル。この急勾配を列車は「Z字形」に方向転換しながら上る。全国的に珍しく、JR西ではここだけだ。実は、木次線は96年3月、原さんが出雲大社(島根県)で結婚式を挙げた後、2人で乗った思い出の路線でもある。
「景色もすばらしく、スイッチバックで三井野原駅に着いたときには雪景色。古い駅舎やループ線と同じように、スイッチバックも貴重な鉄道遺産。長く保存する価値を持っていると思います」
地方鉄道は、鉄道会社が採算性を重視する姿勢を強めているため切り捨てられつつある。だが、長く保存する価値のある地方鉄道は数多(あまた)あると、原さんは指摘する。
■人生を投影したくなる
最後に原さんが挙げる名古屋と大阪を直通で結ぶJR関西線の亀山-加茂間も、そんな思いのある区間だ。輸送密度は722人。ここも最初に挙げた函館線と同じく、かつての大幹線だった。だが、東海道線や東海道新幹線に取って代わられ衰退の一途をたどった。今や単線非電化で、1両か2両編成のディーゼルカーが走るだけのローカル線になった。
しかし、沿線には伊賀上野(三重県)や笠置(京都府)など歴史的に由緒ある場所が残る。特に笠置には鎌倉時代の後半、倒幕に動いた後醍醐天皇が籠城(ろうじょう)した笠置山がある。笠置駅は桜の名所だ。
「鉄道というのは、人生を投影したくなるものでもあります。例えば、かつて有名だった人がすっかり落ちぶれてしまうことがあります。関西線には、そんな人物を思わせるところがあるのです」(原さん)
■JR線9割近くに乗車
続いて話を聞いたのは、「女子鉄アナウンサー」として活躍するフリーアナウンサーの久(くの)野知美さん。高校生のとき通学に使った京阪電車で鉄道に目覚め、今や全国約2万キロあるJR線の9割近くに乗った、いわゆる「乗り鉄」だ。
久野さんが乗りたい地方鉄道のトップに挙げたのは、日本最北端を走るJR宗谷線の名寄-稚内間。輸送密度は165人。久野さんは数え切れないほど乗っていて、沿線は「第二の故郷」になっているという。
「線路は単線で、列車は大草原の中を走りますが、『何もないがある』といった空気感が大好きです。駅ではどこもほとんど人が降りないのに、けなげに扉が開きます。その駅もかつて多くの人が乗り降りしていたんだなと思いをはせたりします」