そして、10月10日、巨人は打たれても打たれても長嶋監督が辛抱強く使いつづけた新浦寿夫の7回2失点の好投で阪神に勝利したものの、5位・大洋が中日に勝ったことから、球団創設以来初の最下位が決定。同15日には本拠地・後楽園で、球団史上初Vを達成した広島の胴上げを目の前で見せつけられる屈辱も味わった。
最終的に47勝76敗7引き分けで、広島に27ゲーム差の最下位。にもかかわらず、観客動員は過去最高の283万人を記録するなど、ファンはけっして見捨てていなかった。
そして、数々の試行錯誤の末、「何をすべきかが目の前に見えてきた」長嶋監督も翌76年、“チャレンジ・ベースボール”をスローガンに、トレードで張本勲、加藤初を獲得したのをはじめ、高田繁の三塁コンバート(ジョンソンは本職の二塁へ)、新浦の一本立ちなど、打つ手打つ手が奏功し、最下位から優勝というミラクルを達成する。
結果的に新時代の扉を開ける転換期となった75年。球団史上たった1度の“汚点”も、けっして無意味なシーズンではなかったと言えそうだ。(文・久保田龍雄)
●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。