口の中には細菌がたくさんいる。増殖を防ぐには口腔ケアが重要。災害時にケアを十分にできず、肺炎で亡くなる高齢者が多いことがわかっている。
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口の中が汚れて雑菌が繁殖すると、糞便と同程度の汚れになるという。
「うんこを口に入れて歩いているようなもの」と話すのは、神戸市健康局歯科専門役で歯科医師、ときわ病院(兵庫県三木市)歯科・歯科口腔外科の足立了平さん。
1995年1月に起きた阪神・淡路大震災で「震災関連死」という言葉が初めて使われた。高齢者を中心に肺炎で亡くなる人が多かったが、当時は震災と肺炎の関係はよく知られていなかった。
足立さんはその後、震災と肺炎が密接に関係していることに気づいた。「高齢者にとって口腔ケアが肺炎から命を守る。歯を磨かないで肺炎を起こすと死にますよ」と、足立さんは啓発活動を続けている。
阪神・淡路大震災で亡くなった6434人のうち、圧死や窒息など直接死が5507人。足立さんは、残る927人の大半が関連死とみている。
震災から10年近く経て神戸新聞が921人の関連死について調べた。足立さんによると、(1)最多の死因は24%を占めた肺炎、(2)60歳以上が90%と高齢者が多い、(3)発災後の2カ月の間に80%が亡くなった。その後に起きた震災の関連死も似た状況だったという。
関連死は一般的にストレス、常備薬の紛失、脱水、生活の不活発、低栄養などが原因と考えられている。一方、足立さんは阪神・淡路大震災で「肺炎が多いと内科医から聞いていた」と話し、災害時に肺炎や脳卒中が増えることに気づいた。
災害時は高齢者中心に肺炎が多いのはなぜか。足立さんはこう考えている。水不足などによる口腔ケアの不備や、加齢で身体機能などが衰える高齢者のフレイル、糖尿病や高血圧の持病の悪化などにより、誤嚥しやすくなる。
また、常備薬の紛失や極度のストレスなどで脳梗塞も増え、これも誤嚥につながりやすい。