避難所での口腔ケアは後回しにされがちになる
避難所での口腔ケアは後回しにされがちになる

 阪神・淡路大震災は早朝に発生し、入れ歯を持ち出せなかった高齢者がいたとみられる。避難所で提供されるおにぎりなどは、高齢者にとって食べにくいこともある。口の衛生状態の悪化、のみ込む筋肉の機能低下、脳梗塞、栄養低下などが「誤嚥性肺炎を引き起こしたのでは」と足立さんはみている。

 阪神・淡路大震災の後の震災も関連死は高齢者を中心に肺炎が多かった。足立さんによると、関連死に肺炎が占める割合は、2011年の東日本大震災で27%、16年の地震で24%だった。

 一方、04年の中越地震は15%にとどまった。新潟県は「日本で一番、虫歯が少なく口腔ケアの先進県」(足立さん)という。中越地震の直後、足立さんたちは新潟県の関係者に阪神・淡路大震災の教訓を伝え、新潟県側は迅速な対応で組織的な口腔ケアを提供した。地震の3日後ぐらいから巡回医療も始めていたという。これが奏功し、関連死に占める肺炎の割合が小さかったとみている。

 一方、東日本大震災では、足立さんは現地で口腔ケアまで手が回らない状況を目のあたりにした。震災の1カ月後、訪問した岩手県の介護老人保健施設に定員の2倍以上の要介護者がいた。職員は非常に多忙で、施設に支援の手が届いていなかった。施設には被災してから歯を磨いていない人もいた。震災後の大変な状況の中で、真っ先に削られるのは口腔ケアだという。

 宮城県気仙沼市内の三つの病院で調べたところ、東日本大震災を境に肺炎の入院患者数が2.4倍に増え、死者数は3.1倍に拡大したという。肺炎で入院していた9割が65歳以上だったともいう。

 震災の教訓から、「口腔ケアで細菌を減らせば肺炎死を防げる可能性がある」と足立さんは言う。普段から口の中を清潔にし、低栄養にならないよう食事を十分にとれる状態にしておくことが重要となる。「サバイバルに歯が必要」(同)で、入れ歯を失くす心配がないよう、普段の手入れで健康な歯を残しておく必要がある。

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