中核拠点病院と拠点病院には「エキスパートパネル」という検討会が設置されている。ここでさまざまな専門家ががん遺伝子パネル検査結果を受けて総合的に検討し、治療方法を決定する。その結果は担当医を通して患者に伝えられる。
「この検査によってオーダーメイドの治療選択が提案できると期待されています。検査を受けた約半数の患者に遺伝子変異が見つかりますが、実際には使用できる薬がない場合もあります。治療に結びつくのは治験や臨床試験も含めて10~15%程度。その薬が効くかどうかは、また次の段階です。それでも薬の数が今後増えていくことで、適切な治療に届く患者さんも増えるでしょう」(米盛医師)
■副作用をコントロールする「支持療法」が充実
がんの薬物療法の進化は、副作用の面でも顕著だ。米盛医師は「20年くらい前の副作用のイメージとは異なっています」と話す。
従来の抗がん剤は正常細胞にも作用するため副作用が強く、そのつらさから治療を継続できないことも珍しくなかった。しかし現在は薬剤ごとに起こりうる副作用を予測し、むかつきや嘔吐をやわらげる薬を事前に投与するなど、副作用をコントロールする「支持療法」が充実している。そのため多くの薬物療法が外来・通院でできるようになった。
「長期間の入院を迫られなくなったことで、患者さんは仕事や家庭生活と薬物療法を両立させやすくなりました。がんは確かに怖い病気の一つではありますが、有効な治療法は多く存在します。病気の段階や状況に応じて、治療や健康管理をしていくことが大切になっています」(米盛医師)
副作用については、医師からの十分な説明が重要だ。東京大学医科学研究所病院の朴成和医師はこう話す。
「薬物療法で起こりうる副作用の頻度を説明するだけでなく、その自己管理法についても患者さんに理解してもらうことが大切です。私の場合は、『はき気などは治療後数日で回復するなど、副作用には波があります。自分なりのペースをつかんでいきましょう』『嘔吐や発熱があっても、二日酔いや風邪程度の軽微なものであれば心配しなくて大丈夫。事前にもらった頓服薬などでようすを見ましょう』と説明します。一方で、頻度は低いけれど危険で後遺症を残してしまう重篤な副作用もあるので、それがどの程度の頻度で起こるのか、どんな症状が出るのか、患者さんがイメージできるように説明することも必要でしょう」
(文・神素子)
※週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2022』より