ゴールデンタイガーの「特製TKM」は一杯850円。生卵、鶏チャーシュー2枚、味玉がのっている(筆者撮影)
ゴールデンタイガーの「特製TKM」は一杯850円。生卵、鶏チャーシュー2枚、味玉がのっている(筆者撮影)

 メニューはつけ麺と「TKM」。TKMは「タマゴカケメン」の略称で、「金の素」をブラッシュアップさせたものだ。「卵かけご飯」の「TKG」からヒントを得て付けた名前はアイデア賞といっていいだろう。艶やかな麺の上に浮かぶ黄色い卵の黄身。シンプルながら絵になる一杯だ。

 このTKMが19年4月に大ブレークする。栃木県小山市で開かれた「ラーメン祭り」に出店した時である。ポスターにTKMの写真が載った時は、「これはラーメンじゃない」とばかにされたが、いざイベントが始まると、そのおいしさに他店の店主から絶賛の声が集まる。その後、名店の店主が限定メニューとして出し始めるなどTKM自体が広がっていった。

「よく言えばシンプル、悪く言えば手抜きに見えたのか、お客さんもあまり注文してくれないメニューでした。でも、イベント後に一気に忙しくなり、TKMを注文する人も増えましたね。続けることでリピーターも確実に増えていきました」(金澤さん)

締めの追い飯も絶品だ(筆者撮影)
締めの追い飯も絶品だ(筆者撮影)

 つけ麺の材料で作ることができ、麺のゆで方もつけ麺と同じ。なのに、この唯一無二な一杯を作り上げたのは革命といえる。簡単そうに見えるが、シンプルさゆえにごまかしが利かない。麺をどう仕上げるかがすべてで、そこに全神経を集中して緻密(ちみつ)に作り上げた一品である。

 このTKMを看板に掲げ、「ゴールデンタイガー」は一気に人気店に上り詰めた。20年10月からは麺を自家製麺に切り替え、よりうまさが際立つようになった。金澤さんはこれからもシンプルな一杯を極限まで磨き続ける。

「かし亀」駒店主は、このTKMの大ファンだ。

「とにかく麺がおいしい。かためですごくコシのある麺で、なかなかこういう麺には出会ったことがありません。シンプルなだけに細部まで磨き上げられていて、麺の太さ、弾力、のど越し、タレの絡みなど、どこをとっても最高の仕上がりです。私も家で何度も試作したことがありますが、なかなかうまく作れないんですよね」(駒さん)

「うまい麺があればスープは要らない」という金澤さんの発想から「TKM」は生まれた(筆者撮影)
「うまい麺があればスープは要らない」という金澤さんの発想から「TKM」は生まれた(筆者撮影)

「ゴールデンタイガー」金澤店主も、「かし亀」の町中華の域を超えた人気に感服する。

「インスタ映えの先駆者的なお店だと思います。そして映えだけでなくしっかりおいしい。ラーメン店ではなかなかできないメニュー数を毎日こなしていて、こだわりのすごい方だなと思います。オリジナリティーにあふれていて、見せ方も面白く、町中華の新たな形として大変勉強になるお店です」(金澤さん)

 人気の町中華のデカ盛りメニューとシンプル・イズ・ベストなTKM。どちらも料理は味だけでなく、見た目も大事だということを教えてくれる。そして食べればさらに納得なおいしさ。ファンを夢中にさせる一杯は何より強い。(ラーメンライター・井手隊長)

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