ゴールデンタイガーの店内は随所に遊び心が垣間見える(筆者撮影)
ゴールデンタイガーの店内は随所に遊び心が垣間見える(筆者撮影)

「常勝軒」はすぐさま繁盛店になった。金澤さんは無我夢中で店を回し、気がつけば接客が好きになっていた。

「お客さんとのコミュニケーションがとにかく楽しくて、この仕事って良いなと思いました。目の前で『おいしいね』とか『元気もらえるよ』を言ってもらえる幸せな職業ですよね。常連の多い地元に愛されるお店だったからこそ感じられたことかもしれません」(金澤さん)

 オープンから3カ月後には店長に抜擢(ばってき)され、失敗も多かったが成長できた。従業員もたくさんいて、人の配置や人間関係も含め、店作りを学んでいった。「常勝軒」で8年働いた後は、群馬の系列店「景勝軒」に入り、エリアマネジャーとして各店を指導する立場になる。原価や人件費などの数字面も見られるようになった。

 その後、妻の妊娠をきっかけに、金澤さんは独立を考え始める。

「ちょうどこの頃仕事に疲れている状況で、今のままだと子どもにこの顔を見せられないなと思ったんです。妻も背中を押してくれて、独立に向けて動き出すことになりました」(金澤さん)

店主の金澤さん(筆者撮影)
店主の金澤さん(筆者撮影)

 そこで、店の定休日を利用して「金の舌」と名付けたイベントを開催。オリジナルのラーメンを提供することにする。ここで生まれたのが、「金の素」というメニューである。ゆでた麺を氷水で締め、醤油タレをかけて生卵を乗せたシンプルな一杯。店のまかないとして、具無し、スープ無しで麺とタレだけを絡めて食べていたのをヒントに作ったという。

「つけ麺をメインでやろうと思っていましたが、週1のイベントのために仕込むのがとにかく大変だったんです。スープを無しにして、麺とタレだけで作れれば理想だと考えて作りました。うまい麺があればスープは要らないのではという発想です」(金澤さん)

ポップな入り口にはマスクをつけた虎のイラストも(筆者撮影)
ポップな入り口にはマスクをつけた虎のイラストも(筆者撮影)

 この「金の素」が、のちに「ゴールデンタイガー」を支える一杯になっていく。

 こうして2018年3月、金澤さんは谷に「ゴールデンタイガー」をオープンする。33歳の時だった。店名は長男の虎太郎くんの名前から名付けた。店のポップな外観は、先輩のデザイナーに作ってもらった。

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