安全策よりも大事なものは「ありがとう」(イラスト:サヲリブラウン)
安全策よりも大事なものは「ありがとう」(イラスト:サヲリブラウン)

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 札幌に行ってきました! ようやく、です。なんと3年ぶり。大好きな北海道、なんらかの理由を付けて通いたいくらいなのに、コロナでそれが許されませんでした。空港に降り立った時には胸に迫りくるものがありました。親戚も誰も住んでいないけれど、思わず「ただいま!」と言いたくなるくらい。

 今回は、老舗ラジオ局AIR‐G’の人気番組「スパクル!!」のトークイベントにお招きいただき、パーソナリティーの松尾亜希子さんと2時間じっくりお話を。なんと400人ものリスナーさんたちにお集まりいただきました。3年のあいだに忘れられてはいなかった! なんならお客さん増えている! これはポッドキャストのおかげかもしれません。

 イベント後には、これまた久しぶりのサイン会。200人以上の方が書籍を購入して長い列に並んでくださり、気の小さい私はだんだんこのあたりから、純粋な喜びに恐れが混じるようになり、「いいのかな……私なんかで」と及び腰にもなりかけました。しかし、せっかく会いに来てくださったんだもの、弱気なことは言っていられません。「いえいえ、私なんかが」と引き下がるほうが気楽な場面って、大人になればなるほどたくさんあるもの。それでも踏ん張って、「ありがとうございます!」と言うこと、自分が手掛けた成果物の責任をまっとうするという意味でも、非常に大事なことです。

 たとえば誰かに仕事や料理や気遣いを褒められたとき、「いえいえ滅相もない……」と対応するほうが楽ですし、角も立ちません。安全策と言えば安全策。

 と同時に、社交辞令ではなく、本心から感謝したり褒めたりした側の気持ちは宙に浮いてしまいます。たいしたことではないと思われがちなことだけれど、実はそうでもないのですよ。

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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