「台湾政府がわざわざリスクを冒して『台湾独立』宣言することは現実にあり得ないので、中国も武力解放を行う根拠はなくなる。台湾海峡は最も狭いところでも130キロあります。台湾に侵攻するには強力な輸送船団、後方支援能力、継戦能力を築かなければなりません。中国南東部の港に船団が集結すれば、偵察衛星で察知されますから、やはり現実的ではありません」
1949年の古寧頭(こねいとう)戦役などで、中国の人民解放軍は、中国本土・厦門(アモイ)湾口にある金門島や、馬祖島を攻撃したが、攻略することはできなかった。前田氏が説明する。
「中国軍は対岸の厦門などから激しい砲撃を加え、上陸戦を試みたのですが、島ぐるみで要塞化された金門島、馬祖島に阻まれ、失敗しています。中国はその先例をわきまえているはずです」
自民党は、相手国のミサイル基地などをたたく「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と言い換えて保有を提言。政府は年内に「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の改定を進める。また、自民党の佐藤正久外交部会長は5月、米シンクタンク「戦略国際問題研究所」のイベントで、ロシアや中国、北朝鮮のミサイル攻撃を抑止するため「北海道に中距離ミサイルを配備すべきだ」と言及した。
「冷戦時の“北の脅威”論が舞い戻ってきたかのようです。北海道でロシアと対峙し、南西諸島で中国を警戒し、北朝鮮のミサイルに備える。まさに旧日本軍が日中戦争を戦いながら、米国とソ連との戦争に備え、結局どの戦線でも敗れていった自滅の道『多正面作戦』の悪夢が蘇る」(前田氏)
歴史はくり返すのか。(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日 2022年6月10日号